KANGEKI2021年1月号Vol.54

旅芝居女優名鑑第1回 三河家諒「今、舞台で泣いている諒さんは心の中の私です」~50歳からはただ“女優”として生きたい~(2/5)

取材日:2020年11月24日
旅芝居女優名鑑 第1回 三河家諒 「今、舞台で泣いている諒さんは 心の中の私です」 ~50歳からはただ“女優”として生きたい~(2/5)

普通の仕事も経験したくて法善寺…からの役者復帰

与ろずや柴舟劇団を退団した後、いったん役者を辞めて大阪でアルバイトを始めました。

「人生で1回は普通の仕事をしてみたかったんですよ(笑)。役者以外の仕事が出来るかどうか試したかった。
その頃、姉が大阪に住んでいたのと、兄の紹介もあって心斎橋のバーで働いて、その後、法善寺横丁の焼肉屋さんでアルバイトしました。
これで私も普通の仕事も出来ることが分かったので(笑)、1年後に伍代劇団で舞台に戻りました」

「演劇グラフ5号」(2001年3月1日発行)の「花いちりん」に
初掲載。当時の芸名は「花園涼」

「嫉妬は女優の勲章」プラス思考で振り切る!

伍代劇団ではもっぱら座長の相手役を務めました。

「どの役が好きとかは無いです。父がどんな役でも出来るようにという方針だったので、何でも演ってきました。もちろん立役も。でも伍代劇団では座員が揃っていたので、もっぱら座長の相手役でした」

人気役者揃いの劇団。女優はどうしても嫉妬の対象に…

「送り出しの時、お客様に避けられたこともありました。そんな時、あるお客さんが『あなたが素敵だからやきもち焼かれるのよ。自信を持ちなさい』と声をかけてくれて。そして『高価なものを身につけなくて良いから、手首、足首、出てるところを綺麗にしなさい』と、教えてくれました。

舞台で身に着けるもの、足袋とか肌着とか。そんなこともあって、私、女優で一番大事なのは清潔感じゃないかなって思っています」

女の演技を極めたら、女性から支持されるように。

娘役、相手役を演じ続ける中で、ふと思ったこと。それは、立役を得意とする女優は評価されているけれど、女役を演じている女優は…

「立役をする女優は評価され人気もありましたが、女役で良いと言われる女優は少ない。伍代劇団では、私は立役は数本で、あとはずっと女役。ならば『女』を極めてみようって、演っていたら、女性のお客さんが支持してくれるようになったんです」

「マリア観音」(2018.1.20@朝日劇場たつみ演劇BOXゲスト)

凝りだすと止まらない諒、女の演技の研究に没頭します。歌舞伎、新派劇…たくさんの舞台を観て、分かったことがありました。

「女形の役者は男だから、女の演技を研究して演っているわけですよね。女もただ単に女の鬘かぶって女の着物着て出るだけじゃだめ。もっと研究して演じないと。研究すれば、元が女なんだから男に負けるはずがない。それには、日本女性古来の恥じらいを意識することだと思いました。

『女形は泣いて見せる。女優は泣くのを我慢して見せる』

これ、花柳章太郎さん(新派の女形役者)の言葉なんですけど、よく言い表してますよね。大衆演劇の場合、男の人が演るのを、女優の子たちも真似しがちです。もっと自分なりに研究して。
私は水谷八重子を知って、気づきました。
杉村春子、太地喜和子、山田五十鈴…好きな女優さんたちです。

『紫陽花や山田五十鈴という女優』(升本喜年)

これは本のタイトルなんですが、素敵な言葉でしょう?」

諒の自室の本棚。歌舞伎などの舞台映像や演劇関係の書籍がいっぱい

次ページ:評判を呼んだお芝居「男の人生」「湯島の白梅」