旅芝居女優名鑑第1回 三河家諒「今、舞台で泣いている諒さんは心の中の私です」~50歳からはただ“女優”として生きたい~(2/5)
普通の仕事も経験したくて法善寺…からの役者復帰
与ろずや柴舟劇団を退団した後、いったん役者を辞めて大阪でアルバイトを始めました。
「人生で1回は普通の仕事をしてみたかったんですよ(笑)。役者以外の仕事が出来るかどうか試したかった。
その頃、姉が大阪に住んでいたのと、兄の紹介もあって心斎橋のバーで働いて、その後、法善寺横丁の焼肉屋さんでアルバイトしました。
これで私も普通の仕事も出来ることが分かったので(笑)、1年後に伍代劇団で舞台に戻りました」
「嫉妬は女優の勲章」プラス思考で振り切る!
伍代劇団ではもっぱら座長の相手役を務めました。
「どの役が好きとかは無いです。父がどんな役でも出来るようにという方針だったので、何でも演ってきました。もちろん立役も。でも伍代劇団では座員が揃っていたので、もっぱら座長の相手役でした」
人気役者揃いの劇団。女優はどうしても嫉妬の対象に…
「送り出しの時、お客様に避けられたこともありました。そんな時、あるお客さんが『あなたが素敵だからやきもち焼かれるのよ。自信を持ちなさい』と声をかけてくれて。そして『高価なものを身につけなくて良いから、手首、足首、出てるところを綺麗にしなさい』と、教えてくれました。
舞台で身に着けるもの、足袋とか肌着とか。そんなこともあって、私、女優で一番大事なのは清潔感じゃないかなって思っています」
女の演技を極めたら、女性から支持されるように。
娘役、相手役を演じ続ける中で、ふと思ったこと。それは、立役を得意とする女優は評価されているけれど、女役を演じている女優は…
「立役をする女優は評価され人気もありましたが、女役で良いと言われる女優は少ない。伍代劇団では、私は立役は数本で、あとはずっと女役。ならば『女』を極めてみようって、演っていたら、女性のお客さんが支持してくれるようになったんです」
凝りだすと止まらない諒、女の演技の研究に没頭します。歌舞伎、新派劇…たくさんの舞台を観て、分かったことがありました。
「女形の役者は男だから、女の演技を研究して演っているわけですよね。女もただ単に女の鬘かぶって女の着物着て出るだけじゃだめ。もっと研究して演じないと。研究すれば、元が女なんだから男に負けるはずがない。それには、日本女性古来の恥じらいを意識することだと思いました。
『女形は泣いて見せる。女優は泣くのを我慢して見せる』
これ、花柳章太郎さん(新派の女形役者)の言葉なんですけど、よく言い表してますよね。大衆演劇の場合、男の人が演るのを、女優の子たちも真似しがちです。もっと自分なりに研究して。
私は水谷八重子を知って、気づきました。
杉村春子、太地喜和子、山田五十鈴…好きな女優さんたちです。
『紫陽花や山田五十鈴という女優』(升本喜年)
これは本のタイトルなんですが、素敵な言葉でしょう?」