旅芝居女優名鑑第3回藤乃かな(3/5)
第3章
フリーの役者・演出家としての今
「釣り忍」秘話
フリーになって今年で4年目。多くの劇団から客演の依頼が舞い込み、新たな繋がりも拓けました。
これは2018年1月、劇団花吹雪の取材時に桜春之丞座長から伺ったエピソード。
お芝居はこの日が2回目の上演になる「釣り忍」でした。
「先月の三吉演芸場で、藤乃かなさんが口立て稽古をしてくれたんですが、本番でかなさん自身が稽古と全然違うことをするので心の中でパニクッてたんですよ~」(桜春之丞)
その真相は…?
はい、その通りですね(笑)
私が一番避けたかったのは、お客さまから「今日は春さんぽくなかった、京ちゃんぽくなかった」と言われることなんです。だから口立て稽古でもあまり細かいことは言わないようにして、そうじゃないと桜春之丞、桜京之介じゃなくなっちゃいますよね。
定次郎とおはんの別れの場面で「おはんは定次郎の着付けを手伝うけど、足袋は履かせず手渡しするので懐に入れてください」と伝えました。そういう演出なので。
それが本番、私、定次郎がとっても愛おしくって急に足袋を履かせたくなってしまい…(笑)。
後で「なんでや~」って言われたんですけど、それくらい春之丞座長の定次郎が良かったので、心が引き出されてしまったんです。
今演じてくださっているのをいつか拝見したいです。きっとお二人らしい色に作り上げておられると思います。
人物像が頭の中に全部ある
お芝居での藤乃は、実に自然体です。はつらつと言葉を発し、口を大きく開いて笑う。とめどなくあふれる涙。
まるで蛇口から流れる水のように、自在に出現する喜怒哀楽。決して大げさな表現ではないのに、熱量がグイグイ伝わってくる…
どうしてそこまで感情をしなやかに出し入れできるのでしょうか。
演じる人物像がしっかり私の中にあるんです。
「男十三夜」のお新であれば、親がどういう名前で、どんな人物で、どんな状況で死んで、自分はどんな家に住んでいて、ここまでどうやって歩いてきて…とか、セリフとして言わないけれど、全部あるんです。
逆にそれがないと演じられない。
ゲストでいろんなところに行かせてもらいますが、まずそういうイメージがないと出来ないんです。セリフは後からついてくると思っています。
「喧嘩屋五郎兵衛」の朝比奈も、父母がどんな人物で、自分たちがどんなご飯食べて暮らしてきたか、姉の旦那がどんな人間で、どんな生活していて…というのが全部ある。だから演じるたびにセリフが違っても、ブレないんだと思います。
これは私のやり方なので「何言うとんねん、そんなことよりセリフをちゃん覚えろ」って言われそうですけど(笑)。
また、ゲスト先にお芝居の台本を提供しています。 例えば、長谷川武弥劇団には「田原坂」や、京詩音の誕生日公演に合わせて書いた「恋の通り雨」などがあります。
「恋の通り雨」は忠臣蔵外伝から立てたお芝居で、私は台本を渡しただけでまだ観てないのですが、これは女っぽい詩音にぴったりと思って。評判が良いみたいで嬉しいです。
劇伴もめちゃ大事にしています。ふと流れてきた曲を聴いて「この曲、あのお芝居に合う!」とか、曲からイメージをもらうことも多いですね。