かんげき2025年5・6月号Vol.95

木戸番のエッセイ・天職先は大衆演劇!第35回葉山花凛編後編~嵐瞳劇~

劇場:スパリゾート雄琴 あがりゃんせ
木戸番のエッセイ・天職先は大衆演劇! 第35回 葉山花凛編 後編 ~嵐瞳劇~

大衆演劇の劇団の多くは座長とその家族で構成されている。 役者の家系に生まれた、いわゆる幕内の人間が過半数を占める中、一般家庭から役者になった人もいる。 何がきっかけでこの世界と出会い、日々過ごしているのだろうか? 劇場オープンから9年、木戸番兼劇団のお世話係を務めてきた著者が綴る実録エッセイ。 第35回は嵐瞳劇(らんとうげき)葉山花凛(はやま・かりん)編・後編です!
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SNSを発信した「嵐山瞳太郎」も困っていた。
たつみ演劇BOXを2016年の11月に辞めて、自分の劇団の旗揚げは、2017年の5月に予定していたが、劇場の都合もあって急に早まり、3月になったのである。

旗揚げには、克服しなければならない問題がいくつもあった。
まずは劇団創設のための資金。今までの貯金など全財産と、昔からお付き合いのあった着物屋さん、鬘屋さんには嵐山瞳太郎の「信用」でなんとかクリアできたが、つぎは劇団員である。
旗揚げまでの劇団には「嵐山瞳太郎」と母の葉山京香のふたりしかいなかった。

座長はSNSを使って役者を募集した。 それで集まったのはすべて女性で、4人。 その一人に、二十歳になった桜もいた。

心機一転、桜は、「嵐山瞳太郎劇団」では「葉山花凛」と名のり、芸の上達に務めようと決心していた。凛花以外に応募してきた女性は、輝京(18歳)、萌香(20歳)、ゆり(19歳)であった。

劇団は、座長の実家のそばにあったダンスホールを借りて、稽古を始めた。
役者の経験のあるのは花凛と輝京、萌香とゆりは、ずぶの素人である。 その素人の二人を教えるのは、葉山京香の担当だった。
着物のたたみ方から着物の着方。帯の扱いから履き物そして小物の整理まで、細かく指導をした。
大衆演劇の基本である化粧・鬘をマスターするまでに数週間を要した。

そんな中でも、芝居や舞踊ショーの準備は続いてきた。
座長はこの劇団で、2ヶ月分の演目、60の芝居を修得しなければならないと考えた。
当時を振りかえり、座長が筆者に語ってくれた。

『あの時ですね。まずは、うれしいことがありました。それは、自分の夢であった自らの劇団を持つことができたことです。形はできたのですが、それを動かす、役者が……。当時は役者といっても素人ばかりで、芝居も前に進まない有様でした。そこで、なんとか台詞だけは、覚えてもらいました。台詞がでれば、芝居は前に進みます。その後のことは、その時、その時に発生した問題を、劇団が一つになって解決に取り組むだけでしたよ』

座長 嵐山瞳太郎(らんざん とうたろう) 2024年8月15日 あがりゃんせ劇場

劇団員は、必死で芝居を覚え舞踊ショーのステップをマスターした。
花凛は、萌香に自分の持っている技術を全部教えた。
教えを受けた萌香は、振り返る。

『花凛ちゃんの言っていることは、分かるのです……が、同じ事はできないのです。あのセンスだけは、盗めなかったのです』

そんなとき大衆演劇の経験者だった輝京が、自分にかけられている重圧に耐えきれず劇団を去った。
時間は限られている。先生も生徒もない、お互いが、お互いを教え合う。旗揚げ公演まで、1ヶ月をきったとき、徐々に「芝居」らしいものになってきたが、花凛も焦っていた。今までの人生であじわったことがない、心底からの苦しみである。

 

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