KANGEKI2021年1月号Vol.54

特別インタビュー特別インタビュー山根演芸社社長山根大これからも旅芝居があり続けるために(前編)~興行師から見るコロナ禍の現状と展望~

取材日:2020年10月23日
特別インタビュー 山根演芸社社長 山根大 これからも旅芝居があり続けるために(前編) ~興行師から見るコロナ禍の現状と展望~

コロナ禍で大きな被害を受けた旅芝居の世界。
この難局をどうしたら乗り越えられるのか? 
長年旅芝居を支えてこられた山根演芸社社長 山根大さんに伺いました。

2020.11.1浪速クラブ初日 開幕前口上する山根写真

2020.11.1 浪速クラブ初日 開幕前口上する山根

客の減少。公演先の減少…
コロナのせいではない。コロナで顕在化しただけ

 

「大衆演劇ナビ」に寄稿された山根さんのページは、大衆演劇ファン以外の方もたくさんTwitterで拡散されていましたね。

山根

それはありがたいですね。

 

コロナ禍でエンタメ業界全体が大きな打撃を受け、旅芝居の動向もニュースなどで取り上げられました。閉鎖になった劇場、公演を止めた施設もあります。

山根

旅芝居の公演場所は以前から減少傾向にありました。私の父が社長だった頃、山根演芸社が関わる劇団を支えてきてくれたのは、1ヶ月固定の興行費をくれた日帰り温泉施設だったんです。これが我が社の強みでした。それが3分の1に減り、劇場公演が中心になっています。現在、ざっくりとですが、全体の6~7割しか公演先を提供できない状態です。

正直、劇団の規模や活動歴など多少凸凹があります。1年通してトータルで受け入れてもらえた。護送船団方式でね。だから『うちは一番成功した社会主義』と言ってるんですけど(笑)。

しかしコロナで、受け元の劇場・センターさんも、これまで我慢してくれていたのが本音が出てきた。『舞台への意識が高く、お客さんの受けが良い劇団』を乗せたいと…。
でも、そもそもそういうものですよね。コロナ禍で顕在化しただけと見ています。そういう本来の動きが加速している。

2019.06.20 山根演芸社「照友」SUPER NOVA~超新星~in 箕面 舞台挨拶する山根(左端)

コロナ収束後の予測

 

コロナが収束したとして、その後どのようになってゆくと思われますか。またどのようにすべきと思われますか。

山根

『(コロナが収束したら)元に戻りますか』と聞かれます。コロナ自体は収束するかもしれないが、公演先の数は元に戻るとは思えません。そうなると、先ほど述べた『舞台への意識が高く、お客さんの受けが良い劇団』が公演先から声がかかる…つまり興行として本来あるべき姿に向けて、アジャスト(調整)していかざるを得ないんです。

『俺たちを見捨てるのか』と言われます。でもそれは『情』の世界であって、ラーメン屋だってまずいラーメン出してたら客が来ないのと同じで、やはりお客さんの求める舞台をやっていこうよ、商品開発して美味しいものだそうよ、それが出来なければせめて一生懸命やろうよ、愛想だけでも良くしようよ。そういう努力が必要です。

これまでは『座長様』『劇団様』と言われ、役者はえらいという考えがあったかもですが、もはやそういうものではない。ドライな言い方をすれば商品(劇団)に対して入れ物(公演先)が減っている、つまり買い手市場になっているんです。

2019.11.25 梅田呉服座 大阪市老人会感謝記念公演にて
旅芝居の解説を行う山根(右端)

こちらも命張って言うしかない

 

公演先が減少傾向にあったとのことですが、近年、旗揚げ続きで劇団の数が増えました。旅芝居の仲立ちの立場から何か助言をされたのでしょうか。

山根

(旗揚げは)絶対しんどいから止めた方がいいと、10年以上前から言ってます。20年ほど前であれば、たった4人で旗揚げして、徐々に大きくなっていって20人以上になった劇団もありましたが、今はそういう絵が描けない。

月収入を分配すると、人数の多い劇団と少ない劇団ならばどっちが実入りがいい?少ない方がいいですよね。良い舞台を見せようと思ったら人数は多い方が良いのに、そういう劇団がやっていけなくなって、人数が少ない劇団が残る形になってゆくのが一番まずいと思っています。

そんなしんどいことを言わないといけない立場です。でも命張って言うしかない。(コースが)取れないんだもの。

だから私はサッカーのJ1・J2 みたいに入れ替え制にしないといけないのではという考えが、ずっと頭の中にありました。人数だけじゃない。内実の話です。

2018.3.16 山根演芸社「照友」特別公演「泉州×旅芝居」
百花繚乱@岸和田市立波切ホール
第1部口上 主催者として挨拶する山根

劇団も劇場も二分化していく

 

旅芝居興行から撤退するセンターさんにはどのような働きかけを…

山根

もちろん続けてくださいとお願いにあがります。例えば4ヶ月先まで決まっていたとしたら、それだけは保証してほしいと。しかし先方もこのコロナ禍でやりようがなく、その決断を下しているわけですから。

劇場の方がまだ持続出来ています。しかし一口に劇場と言っても、500人規模から100人未満のところまであります。経営方針もまちまちです。その日その日来てくれるお客さんを絶対失望させまいと努力をしているところはお客さんが入って、そうでないところは厳しい。これもまた当たり前の話ですよね。

劇団も劇場も二分化していく。この状況を止められない。これもコロナで顕在化しただけで、元からあったことです。

2018.3.16山根演芸社「照友」特別公演「泉州×旅芝居」
百花繚乱@岸和田市立波切ホール 第1部口上

大衆演劇からクラスター発生のニュースの波紋

 

大衆演劇でもクラスターが発生したとニュースで大きく取り上げられました。
その余波はどれくらいありましたか。

山根

余波はすごくありました。私どもがお願いしにいかないとどうしょうもない。風邪もインフルエンザも悪いと指弾されることはないのに、コロナかかると『悪』みたいな。明日は我が身の相身互いなのに、指弾し合うのは悲しいことですよね。そんな話をすれば『かかること自体は悪じゃなくても移動は悪ですよね』と言う。国の政策としてGo Toキャンペーンがある中で、自覚症状がなかったら動くのは当然でょう。

インフルエンザは毎年3,000人の方が亡くなっています。コロナはさてどうでしょうか。年配の方ほどテレビ報道の影響を受けてます。そういう意識はなかなか覆せないし、公演先が減ったのは簡単には回復しません。

2018.3.16山根演芸社「照友」特別公演「泉州×旅芝居」
百花繚乱@岸和田市立波切ホール 山根大書き下ろしお芝居「男さわぎの祭華」

サスティナブル(持続可能)な方法へシフトする

 

公演先が減少し、全ての劇団が毎月公演出来なくなる。どうすれば良いのでしょうか…

山根

サスティナブル(持続可能な)方法にシフトする事。例えば1年に6か月しか劇場に乗らない。既に実践している劇団があります。そのやり方でやっていけるようにしている。その劇団は(劇場に)乗れないからはなく、いつでもどこでも呼ばれる実力のある劇団です。

コロナは持続可能なやり方にシフトするチャンスなんです。休めないなら1ヶ月から15日公演にする。人数の少ない劇団は合同公演にするのも1つです。

コロナだからこそ、先を見て稽古している劇団。これからはそういうやるべきことをちゃんとやっているところが選ばれてゆくようになります。はっきりしてる。今までそれを不自然にしてきたのは我々。我々が維持をしてきたんです、一生懸命やったら居場所があるのは当たり前だけど、そうじゃなくても居場所があったのは。

2018.3.16 山根演芸社「照友」特別公演「泉州×旅芝居」
百花繚乱@岸和田市立波切ホール フィナーレ

旅芝居の舞台は「熱と力」が身上

山根

ラーメン屋に例えたら、ラーメンセットでチャーハンに餃子をつけても、それがまずかったら食えへんでしょう。結局はラーメンの質を上げるしかないんです。
よく座長が舞台口上で『熱と力で見せます』と言うでしょう。情熱、心意気で舞台を作る。下手さは二の次なんですよ。まずは一生懸命やる。それが客に伝わり、情が生まれるのです。

KANGEKIウェブ版に期待することは「良いものを押し出すこと」

 

コロナ以前からの課題について、詳らかに教えていただきありがとうございます。まだまだお聞きしたいことがあり、これ以降は次号に分けて掲載させていただきたいと思います。
前編の最後の質問です。カンゲキが今回からウェブ版としてスタートを切ることになりました。今、大衆演劇・旅芝居を伝えるメディアに対してご助言、期待することをお聞かせください。

山根

冒頭に出た『大衆演劇ナビ』が良いと思ったのは、ムック形式(編集内容や体裁が雑誌と書籍との中間であるような出版物)やから。自分らが良いと思ったものを取り上げて後押しをする。ダメなものをダメとわざわざ言う必要はないけれど、良いものは良いと伝える。読む人もそういう情報を求めているのではないでしょうか。横並びにするのではなくね。

その劇団のどこがいいのかをグッと押し出してやらないといけない。『この劇団のお芝居のここがいい!』『衣装は地味だけどこういう魅力がある!』など、良いところをグッと押し出してやってほしいです。

過去に大衆演劇の雑誌で役者の人気投票をやった結果、潰されてしまったことがありました。そんなふうに上下をつけるのは御法度です。

そうではなく、ええところを押してゆく。元教師の実感として言えるのは『ここが悪いから直せ』と言っても聞くのは10人のうち1~2人いたら良い方。『ここがええから頑張れ』と言えばみんな頑張れますから。

今、見たい劇団があるとして、なぜそこを見たいと思うのか。そういうのを分かりやすく言語化したり、旅芝居を知らない人へのガイドになるようなものを期待します。

2019.4.12 羅い舞座京橋劇場 近江飛龍誕生日公演の鏡割り前に挨拶する山根

(次号に続く)

プロフィール

山根大

山根大やまね はじめ

生年月日 1961年2月1日

昭和36(1961)年2月1日生まれ。大阪府出身。B型。山根演芸社三代目社長。興行師の家に生まれながら、大学卒業後は教員の道に進む。平成元(1999)年以降、二代目社長の父とともに旅芝居の仲立ちに関わるようになる。劇団運営や旅芝居の発展に奔走するほか、芝居の脚本、エッセイ執筆なども行っている。

取材場所:アトム株式会社取材・執筆:加藤取材日:2020年10月23日

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