KANGEKI2021年2月号Vol.55

特別インタビュー特別インタビュー山根演芸社社長山根大(後編)これからも旅芝居があり続けるために~「旅役者」は生き方の名前~

取材日:2020年10月23日
特別インタビュー 山根演芸社社長 山根大(後編) これからも旅芝居があり続けるために ~「旅役者」は生き方の名前~

舞台と客席で育まれる旅芝居の世界。
それゆえの魅力と課題とは。
旅芝居の仲立ちとして長年携わってこられた山根演芸社社長 山根大さんインタビュー後編も必読!

2017.11.12高津神社にて開かれた「あきんど祭り」で旅芝居について講演する山根

パロディ・差異・毒はエンタメの本質

 

今度は、大衆演劇でかけられるお芝居について伺います。

昔ながらのお芝居には良いものもがたくさんありますが、現代の感覚ではピンとこない話や、そぐわない表現を含むものもあります。 大衆演劇をより多くの方に知っていただこうとする時、その辺りがネックに感じます。

例えば「オカマ」は侮蔑を含む言葉ですが、大衆演劇のお芝居では常用されています。 また、初めての人を案内した時に、ブサイクいじりが過ぎて、ハラハラすることもあります。

山根

わかりますよ。今は誰も傷つけない漫才が人気だったりしますよね。

ただ、パロディや差異、毒といったものが、エンターテイメントの本質にはあるんです。 エンタメには権力に対する異議申し立てという側面もあるから、コンプライアンスを拡大しすぎたり、言葉狩りに傾きすぎると窒息してしまうと思います。

もちろん、やりっぱなしではダメ。差異される側の立場になって、その痛みを飲み込んでやらないといけない。「ここでは扱うけれど後でちゃんと補いますよ」という気遣いや配慮ができるかどうか

 

松竹新喜劇の藤山寛美さんの芝居の中にもそんなところがありますね。阿呆役の振る舞いを、ただ揶揄するのではない。

山根

そうです。実はすごく難しい。でも、ちゃんとわかってやっている劇団もありますよね。そういうところにお客様が流れていると思います。

よく言うことですが、みんなしんどくて、空中ブランコのような日々を生きている。時に落っこちそうになりながら。 でも、大丈夫、ここ(劇場)に来れば俺らがセーフティネットになってやる。それが大衆演劇のソウルです。

本来、芸能は弱者のためのものだから。 そんな彼らも、もっと這い上がりたい、脱皮したいともがきながらやっている。ジリジリヒリヒリした感覚にも、私は入れ込んできました。

『役者は36番目の教師だ』と、二代目小泉のぼるさん(故人・のぼる會創始者)が言っていました。1番から35番は何か、わからないんですけど(笑)、つまりお芝居を通じて人に教える役割があるってことですよね。 真・善・美。何が真実か。何が良きことで、何が美しいか。

2017.3.23 大阪市中央公会堂で開かれた講演会
「日常に仕掛けられた祝祭」に登壇する山根

何が良くて何が悪いかはお客様が決める

 

下ネタで笑いが起きますが、面白いから笑っているのではなく、仕方なく笑っていることも多いです。

山根

面白いわけないよね(笑)。清濁を併せ持つのが大衆演劇の良さですから、一定、世間でいうところの悪いものも許容しないといけない。

ならばどこまで?悪いものを決めるのは、お客さんしかいないんです。 下品な下ネタが良いと勘違いさせているのも、お客さんです。 「座長、あんな酷いこと言ったらお客さん逃げるよ」って、言って欲しいです。

 

大衆演劇はお客さんが見たいものに合わせ、またお客さんが育てると言われていますね。反面、地味でも良いお芝居がたくさんあり、お客さんにウケるものしかやれないのは、惜しい気がします。

山根

最近観た映画「異端の鳥」、これがすごく暗くてキツイ話で、全然エンタメじゃねえなあって思ったんですが、次の週、九条のシネ・ヌーボーで「ヴィタリナ」という映画を観たら、「異端の鳥」が娯楽超大作に思えましてね(笑)。

もうね、ただ事やないんです。セリフもない動きもない、暗い部屋で一人の女性が先立ってしまった夫の喪をするのを延々と映す。さっぱり分からないと言う人もいると思います。お客さんが入らなくても、これがすごい(芸術的に優れた)映画があることは間違いない。

劇場興行では、お客さんが入らないと成立しません。作曲家の筒美京平が「僕らはお客さんが聞きたがるものを作るのが仕事」と言っていました。
大衆演劇も同じで、自分が良いと思うのをやるのが仕事ではない、お客さんが喜んでくれることをやるのが仕事なんです。

そこで、作り手が見せたいもの…作り手のエゴを満たすためには、色々な準備が必要です。まずはお客さんの支持を得ること。1日の流れの中や、踊り1本の中でも、自分の「我」を出して、それを認めさせる。

そういうことのできる役者が、先々、旅芝居のグレードや、存在感を上げてくれるだろうという、望みを持っています。

2017.3.23 大阪市中央公会堂。「日常に仕掛けられた祝祭」講演会場

知らない人に届けるために

 

より多くの方に知っていただく手段としても、映画や文芸ジャンルのように、大衆演劇でもグラミー賞のようなものがあると良いのではと思うのですが…

山根

あったら良いだろうけど、内輪でやったら失敗します。やるなら第三者的な視点が必要と思います。誰がやってくれるかが大事。この人ならと思う何人かで実行委員会みたいなものを作るのが一番良いでしょうね。

 

知らない人に届けるために、他にどんな手立てがあると思われますか。

山根

大衆演劇は良くも悪くもゆるい世界です。お客さんが求めるものなら何でも取り入れる。その反面、こんな値段やし、毎日日替わりで一夜漬けやし、ここまでという妥協もある。

だから、そういう悪い面のゆるさを無くして質を高めるのに、一番いいのは値段を上げることだと思います。もちろん最初はしんどいですが。

課題は、来てない人を呼ぶ方法ですよね。まだ届いていない人に届ける。ネットで検索エンジンにかけた時に上位に出るとか、とにかく知らない人の目に触れないといけない。

2017.3.23 大阪市中央公会堂。
「日常に仕掛けられた祝祭」講演中の山根
(左は劇団花吹雪座長 桜春之丞)

進化し続けることがクオリティの向上につながる

 

他の演劇雑誌に大衆演劇を取り上げてもらうとかは…

山根

それもありと思います。しかし昔からジレンマだったのは、大衆演劇の上位概念を作って…それが商業演劇かテレビか分からないけど、そこに向かっていくための梯子に使われるようなケースがありました。

そうせずに、ここに踏みとどまって、業界のクオリティを守ってくれている、そういう人が報われてほしい。

クオリティを求めてそれが実現した時に、ちゃんと反応が返ってくるようなシステムが必要です。

単に今までやって来たことを維持するのではなく、進化し続けないとクオリティって維持できないんですよ。つまり新しいことをやっていくことが、クオリティをあげることにつながります。

しかし「俺はこれでええんや」という肯定感が、この業界のシグネチャー(署名)でもある。

 

進化がクオリティの維持に。なるほどです。

山根

旅役者というのは、劇団を経営して、舞台を企画して、構成して、演じて初めて旅役者です。裏も表も合わせてやらないといけない。駒(コマ)ではない。だから人間力が必要です。

もちろん、1人ではなく、親子、夫婦、兄弟、師弟で補い合って、作っていく。旅芝居の財産として残っている良いものを、集客という形で頑張って繋げないといけない。

2017.3.23 大阪市中央公会堂
「日常に仕掛けられた祝祭」
講演中の山根

女優の活躍を推すにもお客さんの声が必要

 

ファン獲得でいうと、最近、若年層の女性から指示を集めている女優さんがおられて、客席が若い女性たちでいっぱいになります。

山根

彼女たちはその女優さんの強さと綺麗さに惹かれるんでしょうね。 男性が求める女優像と女性が求める女優像は違うと思います。

よく松山千春の「恋」が女心を上手く歌ってるって言われるけど、あれは男性の願望ですよね(笑)。こうであって欲しいという。

凛とした、颯爽としたところがないと、女性は憧れない。でも凛として颯爽とした女性は、男としては怖かったりする。男性は自分を受け入れてくれる女性像を求めている気がします。

 

女優さんたちがもっと活躍するには何が必要と思われますか。

山根

この世界が男性中心で、女優が副次的なものという構造を突破するのは、やっぱりお客さんの力が必要です。(女優さんの活躍を良しとしない)構造を作っているのは、お客さんの意識です。

うちの妹が言うんだけど、客席で「あんた誰のファン?」と聞かれるって。自分以外の客のことが気になるんやね。そして演者にはそういう声の大きいファンの声が一番届いているという…(笑)。

さっきの若い女性たちで客席が埋まる状態を、従来の女性客が受け入れること。それができるかどうか。 一度、今活躍している女優さんたちを使った興行をやってみたいですね。

2017.11.12高津神社にて開かれた「あきんど祭り」で紹介される山根

一生懸命さが何よりの価値

 

この1年で各地の劇場センターが閉館になったり大衆演劇から撤退されました。対して大阪には、徒歩圏内に5つも常打ち小屋があるという全国でも稀なエリアもあります。

山根

新世界界隈の5つの劇場には、それぞれにお客さんがついています。
5館ともキャラクターが違っているところが良いと思います。

もっとみんなに愛されるものになってほしい。それだけの価値のあるものを提供してほしい。それは何かと問われたら、やっぱり一生懸命にやることだと思います。

下手なあんまでも、力が入ってるのはわかる。たとえツボに入ってなくても一生懸命さが伝わって、多少痛くても我慢できるし(笑)、情が湧きます。

2017.11.12高津神社「あきんど祭り」里見劇団進明座による奉納舞。
旅芝居の魅力を伝える取り組みの一環で行われた

新しいライフスタイルに旅芝居を

 

長時間にわたりありがとうございます。最後に、コロナ禍が続く中で、どうしたら良いか明確な答えは出ないと思いますが、今のお考えをお聞かせください。

山根

徐々に日常が戻っていくことを願っています。コロナ禍の今、観劇がすっかり悪いことになってしまっています。それには恣意的な力が働いているようにしか私には見えないのですが…。

「旅役者」は職の名前じゃない、生き方の名前です
内容を良くするのも、やっている人間の心がけ1つ。心がけを持っている人は、業界の良心です。そういう人がずっとここにいても良いと思えるように守りたい。
みんな集客という課題に絡まれて、ときには自分の節を曲げたりしながら、少しずつしんどい思いをしながらやっています。

「新しいライフスタイル」に旅芝居を加えてもらえるようにするにはどうしたらいいか。 活路を見出すため、我々もやり方を考えていくしかないです。そしてそれは配信じゃないのでは…と思っています。

2017.11.12高津神社「あきんど祭り」里見劇団進明座による奉納舞。
旅芝居の魅力を伝える取り組みの一環行われた

プロフィール

山根大

山根大やまね はじめ

生年月日 1961年2月1日

昭和36(1961)年2月1日生まれ。大阪府出身。B型。山根演芸社三代目社長。興行師の家に生まれながら、大学卒業後は教員の道に進む。平成元(1999)年以降、二代目社長の父とともに旅芝居の仲立ちに関わるようになる。劇団運営や旅芝居の発展に奔走するほか、芝居の脚本、エッセイ執筆なども行っている。

取材場所:アトム株式会社取材・執筆:加藤取材日:2020年10月23日

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