舞台裏の匠たち第9回鈴成り座棟梁・粟田順一さん(3/3)
気がついたら15年
差し支えない程度で伺います。辞めたいと思ったことはありますか。
そりゃ、ありますよ。自分一人でやるようになった最初の月、今月が終わったら辞めようかなと思っていました(笑)。聞いてた話と全然違うし、これはちょっと厳しいと。でも、すぐ辞めるのも…と思ったのと、とりあえず働かなきゃいけなかったので。当時30代でまだ若かったですし。いま53歳ですが、あのとき今の歳だったら、辞めてるかもしれません(笑)。
これまでの嬉しかった思い出は。
達成感を感じることはあります。怖い座長さんから『ありがとう』って、褒められたりとか。
座長の、オーダー通りの舞台ができたのでしょうか。
まあ、そうなんですかねえ。僕は基本的に段取りを重視するので、どこの劇団さんにも、早めに打ち合わせをしてくれるようにお願いしています。
特にややこしいものは、実際に一回、舞台に組ませてもらって、劇団さんに見てもらいます。じゃないと、本番で組んで『これは無理だ』ってなってしまいかねないので。舞台転換も、段取りを事前に考えておかないとうまくいきません。
だからこそ、鈴成り座の舞台の流れは、いつもスマートです。
劇団さんも、いま座長をやっている人たちが、子どもの頃から知っています。気がついたら、ここに来て15年になりました。
今後も粟田さんの組まれる舞台を楽しみにしています。
2月公演 劇団KAZUMA・藤美一馬座長コメント
鈴成り座は、劇場さんでもトップクラスに道具が揃っていて、棟梁さんがしっかり組んでくださいます。頼んだ大道具はほとんど揃います。昔からずっとお世話になっているので、間違いない。安心です。
棟梁は、物静かで、ものすごく真面目な方だなという印象ですね。雑談で笑ったりはしますが、仕事ぶりの通りの人。「この通りのものを作ってもらいたいんですけど」とお願いしたら、最大限に応えてくれます。どのお芝居でも、しっかり作ってくださるので。素晴らしいと思います。この天井の高さで、二階のセットとかも作ったりしますから、すごいです。
取材後記
粟田さんは、役者さんが舞台袖でファン向けの配信を行っているときも、できるだけ画面に映り込まないようにしているそうです。取材当日、鈴成り座のスタッフさんに「本日は棟梁の取材で来ました」とご挨拶すると、「棟梁が取材OKしたんですか…!」と驚かれました。
舞台裏の仕事に興味のある方に向けて、貴重なお話を聞かせてくれました。「劇場ですからね、やっぱり芝居が大事だと思います」。静かな口調の中に、芝居を支えてきた方の15年が滲みました。鈴成り座の丁寧・堅実な舞台に、これからもご注目ください!