旅芝居女優名鑑第8回座長藤間美香~花組むらさき~お芝居に父の背中を追いかけて
まえがき
花組むらさきは現在舞台メンバー5名。毎月の劇場公演を受け持つギリギリの人数ながら、それを感じさせる隙がないほど、工夫が尽くされ、バラエティに富んだ舞台を見せてくれる劇団です。
一座を率いるのは、2人の兄妹座長ーー三代目南條のぼると、二代目藤間美香。 現在のぼるが27歳、美香が26歳。年若い2人が二枚看板となり、お芝居でも主役を交代で演じます。
股旅劇での美香は、小柄な身体にはやや大きく見える三度笠。花道の七三で、天に向かって思いを叫ぶ姿は、凛として健気な風情が際立ちます。
美香が花形から座長に昇格したのは2年前の2019年。それには劇団存続への期待と責任がかかっていました。
6歳から大衆演劇の舞台に立って20年。今日に至るまで、一体どんな歩みがあったのでしょうか。
旅芝居女優名鑑第8回は、花組むらさき座長・藤間美香ヒストリーを伺いました!
第1章
幼少期~初舞台
いつも舞台を見ていた
小さい頃からお芝居が大好きだったと言う美香。いつも舞台袖から父・二代目南條のぼるが演じるのを見てました。
「舞踊ショーには全く興味がなくて(笑)、お芝居の時だけ隅っこから見ていました。父のお芝居が大好きで、いつか自分も父のように出来るようになりたいと思いましたね」
初舞台は6歳ごろ。
「何度か抱き子で出てたらしいんですが、覚えているのは6歳くらいからです。1つ上の兄(三代目南條のぼる)が、ちゃんと学校行きたいからと家に帰ってしまったので、私が出させてもらうことになって。
初めてセリフのある役をもらったお芝居は「弥太郎笠」。
罪を犯した男(弥太郎)が、我が子会いたさに流刑の島から出てくる話です。父が弥太郎で、私はその子供の役でした。
子役でも結構セリフの多い役です。ちゃんと言えてたかどうかはよく覚えてません。ただ演っているうちに、感情が入ってきて、泣いてしまったんですね。
育ての親から『おじちゃんに顔をよっく見てもらえ』と言われて、弥太郎に顔を見せる時です。
お芝居の設定では、子供は弥太郎が自分の親だと知らない。だからここは泣いちゃダメなんだよって言われました。それで次からは我慢して泣かなくなりました。
父は、子供に対してもお芝居のことをちゃんと教えてくれる人でした。
『言葉を理解してないから、わからへんのやぞ』と、セリフの言葉の意味を1つ1つ教えてくれて、それを習うことが楽しかったです。
厳しさで言うと、母(南川美寿々)の方が厳しかったかもしれません(笑)。 失敗して怒られることもあったんですが、出来た時に認めてもらえるのがすごく嬉しかったですね。
とにかく、父の印象が強いです。子供の頃の記憶って、どんどん薄れていくんですけど、お芝居になると、『あ、この時、のぼる先生がこういうセリフを言ってたな』って、思い出してくるんです。あの頃、父のお芝居をたくさん見ておいて良かったって、思いますね」
そんな師匠と仰ぐ父が、突然この世を去ったのは2007年のことでした。
「今から15年前、妹の彩姫(あやひめ)が生まれた年に亡くなりました。亡くなる直前まで舞台に出てくれていました。
父のお芝居で心に残っているのは『恋女房』。『惚れた女房』というタイトルでも演られているお芝居で、何度見ても泣けます。
年齢的にはずっと離れているんですけど、父の相手役をさせてもらったこともありました。
兄は父と共演したことはほとんどなくて、私の方が多く父と舞台に立っていたことになります。父と同じ舞台に立てたことは、本当に貴重な経験でした」
次ページ:「第2章 兄とともに立役として鍛えられる」 へ