KANGEKI2021年3月号Vol.56

木戸番のエッセイ・天職先は大衆演劇!第3回正舞座・颯天蓮編(前編)

木戸番のエッセイ・天職先は大衆演劇! 第3回 正舞座・颯天蓮編(前編)

大衆演劇の劇団の多くは座長とその家族で構成されている。
役者の家系に生まれた、いわゆる幕内の人間が過半数を占める中、一般家庭から役者になった人もいる。
その「外からの役者」たちは、何がきっかけでこの世界と出会い、どのような思いで飛び込み、日々過ごしているのだろうか?
劇場オープンから5年、木戸番兼劇団のお世話係を務めてきた著者が綴る実録エッセイ。
第3回は正舞座・颯天蓮(そうま れん)物語です!

颯天蓮(2020.7.11@池田呉服座)

はじめに

2020年11月に行われたアメリカの大統領選挙は、マスク対決でもあった。

マスクをせずに選挙戦にいどんだトランプ氏は、あえなく落選の憂き目をみた。 トランプ氏がマスクをしない理由が「髪の毛が乱れるから」とか、まことしやかに言われている。実は、前大統領トランプ氏のコンプレックスは、髪にあったと聞く。

かくゆう私は、コンプレックスのかたまりである。 トランプ氏同様、髪にもコンプレックスはあるが、30歳で「脳血栓」を発症、後遺症として「失語症」が残り、それまで雄弁だった自分が、緊張したり興奮すると、どもったり、言葉がでなくなって、人と話せなくなった経験がある。
現在は随分改善されたが、いまだに喋れないというのがコンプレックスとして残り、悩んでいる。

コンプレックスは、程度の差こそあれ、誰しもがもっているものである。傍目には、そんなに気にならないことでも、本人にしてみれば、たいへんな問題なのである。
しかし、そのコンプレックスを話のネタにする人は、別の分野でかなりの自信があるのであろう。


わたしも商売柄、役者の知り合いは多いが、なかでも飲み友だちとしてお付き合いを願っている人に三代目大川竜之助がいる。 彼は、背が低い。その背が低いというのが最大のコンプレックスである。 「金もいらなきゃ、おんなもいらぬ、わたしゃ、もすこし、背がほしい」とは古い漫才の「ねた」であるが、三代目の心情でもある。

三代目の女形は絶妙で、芝居も秀逸。また歌手としては紅白を狙えるだけの歌唱力をもつ。 どうも彼はそのコンプレックスを行動力のバネとしているようだ。


大衆演劇の役者には、背の低い人が少なくない。なかでも昭和30年代にブレイクして、たくさんの弟子を育てた役者に「若葉しげる」がいる。彼も背が低い。 終世、女形で通したほどである。

その「若葉しげる」には息子がいる。『若葉愛』である。テレビでも話題になった「ちび玉三兄弟」の父である。その「若葉愛」にもたくさんの弟子がいたが、その一人に愛洋之介がいた。独立して劇団「紫吹(しぶき)」の座長になり、紫吹洋之助と改名。

当時、劇団「紫吹」は、劇団員は9名程度で、ゲストも常駐していた。そのなかに里見要次郎を師匠にもつ里見正大(さとみ しょうた)もいた。

「紫吹」に入って改名し「要正大(かなねしょうた)」となり、副座長をつとめていた。女優としては、愛寿々女(あいすずめ)等数人が、ステージを飾った。

要正大はのちに「正舞座」を起こすが、それには、まだまだ、時間がかかる。

劇団「紫吹」から要正大と颯天蓮が独立して、自らの劇団をめざして奔走。 令和元年6月、要正大はついに旗揚げをして「正舞座」を創設、座長して劇団の運営にある。 その細君が、本日ご紹介する「颯天 蓮(そうまれん)」である。

颯天蓮(2020.7.11@池田呉服座)

その颯天蓮であるが、彼女のコンプレックスがなんと背が高いことである。
そのタッパが影響してか、演技力が未発達なのか、座長や副座長の相手役には付かないのである。だいたい男役か、女中、子分といった脇役だった。
ずぶの素人から役者になったのが31歳であった。

ところが、いま、座長の妻として、劇団のおかみさんとして、もちろん女優として「正舞座」を支えている。 さて、どのような、半生だったか、そのサクセスストーリーをひも解いてみよう。