木戸番のエッセイ・天職先は大衆演劇!第14回初音きらら~劇団あやめ花形~前編
大衆演劇の劇団の多くは座長とその家族で構成されている。 役者の家系に生まれた、いわゆる幕内の人間が過半数を占める中、一般家庭から役者になった人もいる。
何がきっかけでこの世界と出会い、日々過ごしているのだろうか?
劇場オープンから6年、木戸番兼劇団のお世話係を務めてきた著者が綴る実録エッセイ。 第14回は劇団あやめ花形 初音きらら(はつね きらら)編の前編です!
はじめに
さて、春一番の時期も過ぎ、早春のさわやかな晴れの日、ひとっぷろ浴びようと思って、あがりゃんせの玄関を入ると、まずは広いロビーがあり、土産物などの売り場がある。 フロントで受付をして、館内に入る。1階にある階段を20段もあがると、あがりゃんせの2階に出る。
そこには、イタリアンレストラン「ボザール」があり、その隣にあがりゃんせ劇場があるが、そこにはこのエッセイを書いている私が受付についている。
この受付にいるといろんなことがおこる。
受付は劇場の前にあり、舞台袖の楽屋とも近い。そのために舞台のそでの動きも解れば、観客のいる劇場の雰囲気もわかる。
大衆演劇の出し物によって、劇場の雰囲気が変わる。
シリアスな場面では水を打ったように静かだが、喜劇の場合は大きな笑いに包まれる。
しかし、先日は、こんなことがあった。
役者達の笑い声が、舞台そでから聞こえてくるが、劇場ではそんなに大爆笑はしていない。
そでにいる役者達の笑い声が、大爆笑に変わる。
しかし、劇場の観客には、さして受けてない。
つまり、ある役者が、アドリブで台詞をかえて芝居をしたのである。
それを受けた主役である座長がアドリブで返す。そうなってくると、もっと面白くしようとするセリフを出して、アドリブの押収が続く。
舞台そでにいる役者達には、その光景がおかしくてしかたがない。
大衆演劇の役者は、たいがいすべての役をこなす。つまり、役どころのセリフはみなが覚えているわけである。それが、舞台でちがうセリフが行き交う。役者のアドリブで個性がでる。そこには自己演出がある。自分をもっと目立たせようと、演出するものである。
本来の台詞を知っている役者には、その違いはおもしろいが観客にはそれはわからない。よっぽどの通をのぞけば……。
大衆演劇の役者は自己演出にいろいろと工夫をするが、今回ご紹介する役者は、舞踊ショーで華麗なる「バク転」をするのである。まさに、ジャニーズのアイドルのように。
私の知る限り、大衆演劇の役者で側転はあっても、バク転できる役者は彼女だけである。 華麗なバク転ができる女性が、なぜ大衆演劇の役者になったのか……今回はそんなお話である。