KANGEKI2022年11月号Vol.73

木戸番のエッセイ・天職先は大衆演劇!第20回舞咲碧士編~正舞座~(前編)(3/3)

劇場:スパリゾート雄琴 あがりゃんせ
木戸番のエッセイ・天職先は大衆演劇! 第20回 舞咲碧士編 ~正舞座~ (前編)(3/3)

宝塚歌劇団に入団する為には、宝塚音楽学校を卒業していることが前提条件である。 宝塚音楽学校を目指す女子には、人生において受験する機会は多くはない。 初めての受験は、中学校を卒業のときである。そこで、高校にはいかずに宝塚音楽学校を受験する。

2回目は、高校1年から2年になるとき、3回目は、高校2年から3年になるとき、 そして、最後が、高校卒業をした時である。 受験のチャンスは人生で4回しかない。そこで合格しないと、宝塚歌劇団に入るとこは一生できないのである。

舞咲碧士まいさき あおし
2022.5.5 池田呉服座

未沙葵は、高校1年から2年に上がるときに受験した。 受験生は、大きく2つに分けられている。一つは、「男役」で、もう一つは「娘役」である。

受験生が、「男役」か「娘役」は、すぐに解る。 髪型が、違うのである。
「男役」が短髪にたいして、「娘役」は髪の毛は長い。

平成20年度の受験生の中に、未沙葵の姿もあった。 短髪である。「男役」で受験したのである。未沙葵の「男役」への憧れは強かった。 筋金入りのオスカル気質である。

受験に対しては、大きくバレイや、歌唱力、演技力などが総合的に評価される。 受験生は、受験の為の予備校やスクールに通う生徒が多い。

未沙葵は、歌を習ったことはあったが、スクール経験はなかった。 「男役」の受験生が一列に並ぶと、未沙葵だけが目立った。身長が低いのである。 業界では身長の事を「タッパ」という。未沙葵はタッパがなかった。

受験が始まった。タッパのある短髪が、スクールで鍛えた力を披露する。 未沙葵は身震いした。こんな受験生の中では戦えない、自分の力量を思い知ったのである。

筆者は、こんな話を思い出した。
筆者の知り合いで、かつて、高校野球でならした男の話である。 彼は2年生ながらレギュラーで投手をしていた。ところが1年生で素晴らしい素質の選手が入ってきた。 自分と比較して冷静に考える。

結果、素直に負けを認めるらしいのである。 素晴らしい素質にはかなわない。 それがスポーツ精神だと、筆者も理解した。

未沙葵も、同じような気持ちになっていたのであろう。

結局、宝塚音楽学校の受験に、桜は咲かなかったが、同じ受験生を見て、自分の住んでいる世界とはちがうと思った。アーティストとして、人種が違うとまで思った。

(続く)

プロフィール

小野直人

小野直人おの なおと

生年月日 1953年

1953年 滋賀県大津市生まれ。日本大学・農獣医学部卒業。
小野牧場オーナー、総合学習塾 啓数塾塾長、構成作家(テレビ、ラジオ)を経て、現在は、あがりゃんせ劇場の木戸番として、多くの大衆演劇の劇団や幅白い大衆演劇のファンと交流をもつ。「KANGEKI」で「木戸番のエッセイ」を連載中。

劇団情報

正舞座

里見要次郎関西大衆演劇協会会長・若葉しげる若葉一門総帥に師事し、 劇団紫吹で副座長を勤めた後にフリーとなった要正大座長が 2019年6月、大阪府豊中市の庄内天満座にて旗揚げ。 「正舞座」の名には、今日の舞台に勝負をかけ、 正しい舞台を目指してまっすぐに突き進む想いが込められている。

正舞座公演予定

劇場情報

スパリゾート雄琴 あがりゃんせ

滋賀県大津市苗鹿3丁目9-5

スパリゾート雄琴 あがりゃんせ公演予定