木戸番のエッセイ・天職先は大衆演劇!第24回花總ひびき編~劇団武る~前編
大衆演劇の劇団の多くは座長とその家族で構成されている。 役者の家系に生まれた、いわゆる幕内の人間が過半数を占める中、一般家庭から役者になった人もいる。 何がきっかけでこの世界と出会い、日々過ごしているのだろうか?
劇場オープンから6年、木戸番兼劇団のお世話係を務めてきた著者が綴る実録エッセイ。 第24回は花總ひびき(はなふさ ひびき)(劇団武る)編・前編です!
はじめに
今回は初手から私自身の経歴についてのお話で恐縮だが、現在の職場である「あがりゃんせ劇場」で「木戸番」の仕事につくまでは、30年以上テレビ局で番組制作に携わっていた。 当時、あるプロデューサーが言った言葉で、今でも覚えている発言がある。
「テレビの視聴者は、皆が皆、集中して番組をいるわけでもなく、自分の興味のないコンテンツは小学3年生程度の頭脳で、番組を見流している。そこを、面白いつかみを使って興味深い内容にして、番組を作っていく。そして、大人の頭脳に戻して観てもらうのが、番組作りの醍醐味である」と。
なるほど。私自身、テレビがついていても、興味がなければ、ぼーっと見ているのが現実である。
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あがりゃんせ劇場で木戸番をしていて、放送作家の時代の経験が生かされることもある。
お風呂に入りに来るお客様を、いかにして大衆演劇の世界にお誘いできるか。つまり、面白いつかみを使って、大衆演劇を紹介するのである。
元来、あがりゃんせにお越しのお客様は、温泉施設でいかにのんびりできるのかを最優先に考えているようだ。 なるべく気を使いたくない、脳を使いたくないというのが本音であろう。
そんなお客様に、あがりゃんせ劇場の料金の事や席の取り方やその確保について説明をしても、理解してもらうには時間がかかる。本来の目的以外に「大衆演劇」を観てもらうのは、決してやさしいことではないのである。
それでも、通りすがりのお客様に、芝居や舞踊ショーに興味をもってもらおうと、我々スタッフと役者が一丸となって、努力をしている。 そうした努力の積み重ねがあって、大衆演劇を好きになってくれて、センターの劇場を支えてくれるお客様になってもらえるのである。
役者の中にも、センターで大衆演劇に接し、その魅力に触れて役者になったと言う人もいる。
今回、ご紹介する役者は、家族の猛烈な反対を押し切ってでも、どうしても「役者」になりたかった一人の女性のお話である。
劇団「武る」の女優、花總(はなふさ)ひびきの奮闘記をお読みください!