木戸番のエッセイ・天職先は大衆演劇!第25回花總ひびき編~劇団武る~後編
大衆演劇の劇団の多くは座長とその家族で構成されている。 役者の家系に生まれた、いわゆる幕内の人間が過半数を占める中、一般家庭から役者になった人もいる。 何がきっかけでこの世界と出会い、日々過ごしているのだろうか? 劇場オープンから6年、木戸番兼劇団のお世話係を務めてきた著者が綴る実録エッセイ。 第24回は花總ひびき(はなふさ ひびき)(劇団武る)編・後編です!
Ⅱ
景子と大衆演劇は、小学校の時に母といった老舗のある劇場から始まる。
劇場の前に立った景子は、過去に感じたことない、不思議な喜びを感じた。
その日、母と一緒に見たのが「都若丸劇団」であった。
都若丸劇団が繰り広げる大衆演劇の芝居のすばらしさ、そして、舞踊ショーの美しさは、幼い景子の心をいっぱいにして、全神経に突き刺さっていった。
その魅力は、景子の将来を左右するのに十分だった。大衆演劇の女優になりたい。
それからは、大衆演劇の女優になるためには、どうしたらいいのか、そんな日々が景子にはつづいた。学校を、辞めてしまおうかとまで考えたこともある。しかし、それは妙案ではないと感じた。
とにかく、高校を卒業しよう。
※
高校の卒業を前に、木下家では、家族会議が開かれていた。
まずは、父親が口火を切った。
「高校を卒業したら、景子は、そんな仕事がしたい?」
「大衆演劇の女優になりたい」
父は言う。
「それは絶対に許さない」ダメの一言であった。
景子と父の口論が続く。
景子は、どうしても役者になりたいのよ、大声で怒鳴った。
そのとき、父の手が景子の胸ぐらをつかんだ。
結局、卒業後は旅館のフロント勤務に落ち着いて、働き始めた。
それでも景子は、中学の時に観ていた「武る」の座長に入団をお願いしたが、座長は家族の問題を片付けから来いと一括した。
それから2年、景子は成人式を終えて勝手に家を出た。
「自分の人生、自分で考えたい」
大衆演劇の女優になるための一歩が、始まる。