かんげき2025年5・6月号Vol.95
木戸番のエッセイ・天職先は大衆演劇!第35回葉山花凛編後編~嵐瞳劇~(2/4)
劇場:スパリゾート雄琴 あがりゃんせ

焦れば焦るほど、花凛には今まで見えてこなかった「新しいなにか」が、不意に見えてきたような気がした。 その「新しいなにか」。その「なにか」とは……。
それは、新しい「自分」であるということが見えてきたのである。ひとかわも、ふたかわもむけた自分、甘えのない自分であった。
劇団は七転八倒、苦しんでいたが、葉山京香の目はシビアであった。 『あの頃の劇団の芝居も舞踊ショーも「学芸会」であって、お客様に見せるプロのものとはほど遠かった』
時は待ってくれない。 2017年3月1日、和歌山。南紀勝浦天満座で「嵐山瞳太郎劇団」は旗揚げ公演を行った。
出し物として、芝居は「天竜しぶき笠」。そして舞踊ショーであった。 観客からは温かい言葉もいただいたが、やはり酷評も多かった。 座長は、劇団の強靱化を進めた。萌香の弟・心次郎を照明と迎え、役者の修行もさせた。
大衆演劇の役者は、旅役者である。劇団は日本中を飛び回る集団である。
劇団を構成しているのは、いろんな個性をもった役者であるが、その暮らしそのものは共同生活である。
なかには、劇団員どうしの仲たがいで、劇団がピンチに追い込まれることもある。「嵐山瞳太郎劇団」も例にもれなかった。
その頃、花凛は女優どうしの軋轢のなかにいた。 どうしても、相手が許せないのはお互いであった。 究極の所、どちらかが、劇団を去らねばならないこともある。 それに、花凛には内に秘めた、恋心もあった。 座長に恋をしてしまったのである。
その恋心は周囲の知ることとなった。いまの劇団の中では恋愛などしている場合ではなかった。そこで花凛は劇団を出てコンビニのアルバイトに戻ったのである。
