かんげき2025年1・2月号Vol.94
木戸番のエッセイ・天職先は大衆演劇!第33回英昇龍編後編~優伎座~(2/4)
Ⅲ
結局、健斗は右足首を複雑骨折して、加えて靭帯損傷の重病人になってしまった。全治4ヶ月である。ギブスがとれるまでに3ヶ月かかるような大けがである。学校に行けるようになった時は、3年生になっていた。学校の授業にもついて行けない。ましてや、サッカーもできない。
自暴自棄になる。
夏休みを過ぎると、進路を考える時期である。行きたかった県立高校は諦め、いろいろ悩んだ結果、私立の星淋高等学校を受験することになった。私立高校にはお金もかかる。専業主婦だった母は健斗の学費を捻出するために仕事をはじめた。 そんな母であったが、元気のない健斗を「大衆演劇」に誘った。「大衆演劇」は、健斗の心を温めた。
※
平成20年4月。 健斗は「星淋高等学校」の生徒として通学を開始した。高校のサッカー部の顧問の監督が入部を勧めてきたが、その気にはならなかった。サッカーに対するパッションは、中学生時代で切れてしまったのである。
すさんだ心を温めてくれた「大衆演劇」に足が向いている。そんなある日、「優伎座」の関係者から、役者にならないかとお誘いを受ける。 悩んだ結果、家族に相談をするが……「大衆演劇」は観るモノでするものではない、と大反対をうける。
しかし、健斗自身は大衆演劇の世界に行こうと決めていた。親は「高校も決まりこれからではないか」と、役者の道を否定したが、言い出したらきかない性格の健斗は、高校をやめ、その足で「優伎座」の門を叩く。 健斗は座長に挨拶に行く。座長が言った。「この世界、見た目ほど華やかではないし、苦労ばかりが続く。耐えられるか?」 「はい。」