KANGEKI2021年8月号Vol.60

舞台裏の匠たち第1回横浜・「あさひや」が生み出すオリジナル衣装

取材日:2021年7月4日
舞台裏の匠たち 第1回 横浜・「あさひや」が生み出すオリジナル衣装

横浜の劇場といえば、おなじみ三吉演芸場。そこから徒歩数分の距離にある「株式会社あさひや」は、三吉演芸場で公演する劇団やファンから依頼を受け、大衆演劇のオリジナル衣装を数多く制作しています。

「あさひや」外観
現在は舞台衣装・祭礼用品・着物事業を展開。
過去には洋服や布団を扱った時代もあり、
変化しながら“いとへん”に関わる事業を約90年続けてきた。

三吉に観劇に行くとき、横浜橋商店街を抜けると必ず「あさひや」の前を通るので、ご存じの方も多いと思います。

阪東橋駅から三吉演芸場へのルートとなる横浜橋商店街。
「あさひや」はこの奥に位置する。

役者さんやファンの注文に、細やかかつスピーディーに応える衣装づくりは、どんな技術に支えられているのか?「あさひや」社長の清水一仁(しみず かずひと)さんと、社長の姉で、衣装デザインを担当されている溝田佳恵(みぞた よしえ)さんにインタビューを行いました。

清水一仁 代表取締役
インタビュー

清水一仁(しみず・かずひと)代表取締役

一つの依頼から始まった、大衆演劇との関わり

 

ホームページを拝見しましたが、1932年創業と、90年近くの歴史があるんですね!

清水一仁(しみず かずひと)社長(以下 清水)

創業者は先々代の清水市郎兵衛(いちろべえ)です。私の祖父に当たります。創業当初は八幡(はちまん)町というところにありましたが、その後、この横浜橋商店街にやって来ました。二代目は父の清水克捷(よしかつ)で、私は三代目になります。

もともとは呉服屋として誕生したんです。でも時代の変化とともに、呉服が売れなくなれば、洋服をやったり、布団をやったり、形を変えてきました。以前は、この商店街で4店舗を経営していたんですよ。私の代になってから専門業に特化して、お店も一店舗にまとめました。今は舞台衣装と、父の始めた祭礼用品を、父の遺志を受け継いでやっています。

 

大衆演劇の衣装は、いつから始められたのですか。

清水

20年ぐらい前ですね。4店舗を展開していた時代の、途中からです。きっかけになったのは、あるお客様の依頼でした。呉服が時代とともに厳しくなってきて、呉服をもうやめようかっていうときがあったんです。

そこで呉服の閉店セールをやっているとき、一人のお客様が来て下さって、大衆演劇の衣装を作ってほしいとご依頼されました。大衆演劇のファンの方で、役者さんに贈りたいと。でも私たちは、もちろん近くに三吉演芸場さんがあるのは知ってましたけど、どういう舞台なのかはほとんど知らなかったんです。

 

そのお客様が、あさひやさんと大衆演劇との最初の出会いだったんですね!

溝田佳恵(みぞた よしえ)さん(以下 溝田)

それまでも足袋を買いに来られる方はいたと思うんですけど、衣装の依頼は初めてでした。当時はまだ、三吉演芸場は建て替え前で、一階がお風呂屋さんで二階が劇場という時代でしたね。

そのお客様の依頼は、お引きずりを作ってほしいということでした。女形で着る、裾を引きずった衣装ですね。でも、それまで作ったことがなかったので、作り方が全然わからなくって。何回も失敗しながら、試行錯誤して、できました。そこからだんだん、他のお客様にも広まっていったようで、注文をいただけるようになりました。

清水

注文をいただいて作る、それを繰り返すうちに、だんだん拡大していって、あさひやの事業の一つになったんですね。

「あさひや」から徒歩数分の距離にある三吉演芸場。
ここに乗った役者さんが、開演前の午前中にお店を訪れて、着物の打ち合わせをすることが多い。

昇華転写(しょうかてんしゃ)のスタート

 

大衆演劇の役者さんの衣装は、誕生日公演など日程が固定されたイベントで披露されることが多いので、非常に制作スピードが求められると思います。

清水

はい。なので、大衆演劇の注文が増えるにしたがって、もっとスピード的にもコスト的にも良い方法はないかと、いろいろ探すようになりました。

 

ホームページを拝見すると、2004年から「昇華転写」を使われているとありました。これは一体どういった技術なのでしょう?

清水

通常は、衣装を作るのにまず型紙が必要なんです。型紙を置いて染めるんですね。その型紙にすごく金額がかさんでしまうんです。かつ、型紙を作って、染めて、乾くのを待って、また染めてという作業の繰り返しなので、一着作るのに二か月とかの日数がかかっていました。

いっそ型紙を無くして、簡単なポリエステルで、洗える衣装ができないだろうかっていうのが母の考えだったんですよ。じゃあ、僕がそれを研究してみようかと。紙無しで手で描けないかなとか、いろいろ方法を模索して、各地に足を運びました。

その中で、ある会社の方から、インクジェットの中に昇華液が入ることに成功したと、一度見に来ませんかと言われて、その電話を受けてすぐに東京に行きました。

昇華転写っていう技術は、ポリエステル専門のプリント液があるんですが、その昇華液を一度紙にプリントするんです。そこにローラーで高熱をかけます。熱をかけることで一瞬、煙になるんです。その煙が、ポリエステルに付着して、それが絵となって浮き出てくるんです。ある意味、奇跡の産物ですね。簡単に言えば、プリンターから、イラストがプリントされた紙が出てくるようなイメージです。

オリジナル衣装のデザイン画。
昇華転写を使うと、この柄をポリエステルに付着させることができる。
(「あさひや」提供画像)
出来上がり。
デザイン画がそのまま三次元になったよう!
(「あさひや」提供画像)
 

昇華転写を使うと、コスト的にもスピード的にも相当抑えられるのですか。

清水

コストもかなり抑えられますし、作業速度も断然早くなりました。型紙が要らず、データになりますので、染めるのを待ったり、乾くのを待ったりする時間がないんです。色数が増えても型紙を変える必要もありません。

本来は、看板屋さんなどが使うんですよ。よく、『大売出し』とかの幟を見かけると思うんですが、あれがそうです。呉服屋でその機械を買ったのは、一応、うちが日本で最初だと思います。

 

これまで、特に大変だったなという仕事は?

清水

一番印象に残ってるのは、やはり最初に昇華転写を用いて、作った着物ですね。里見要次郎さんの着物でした。

溝田

それまではずっと正絹で、別染めで作っていたんですが、『昇華転写ができる機械を入れたんです』ってお話したら、『じゃあそれで作ってみて』っておっしゃったので。

清水

1着目だったので、それこそ寝ずに研究して、本当にものすごい苦労をして作りました。でも、できあがった時に、これだ!って思いましたね。


三代続いてきた「あさひや」を守る清水社長。特に「昇華転写」導入のくだりは、当時の苦労や思いを熱く語って下さいました。次のページでは、大衆演劇衣装を長年担当されている溝田さんに、衣装デザインの話を伺います!

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