舞台裏の匠たち第10回神戸の床山チーム「中川かつら」(3/4)
鬘の現代事情
本来は、鬘の襟の部分を作るとき、襟の形の羽二重に、毛が植えてあるものを付けるんですが、そこまでやっていたらすごく手間がかかるし、莫大な金額になってきます。今は襟の部分に、羽二重を付ける人はほとんどいません。その部分だけ、外国で作っています。
鬘も海外の生産地に頼っていると聞きます。
鬘に使う人毛自体、全部、中国やインドから来ています。インドの男の人の、ターバンの下には、すごく長い髪があるんです。その方たちは、お寺にお祈りしたいことがあるとき、お金の代わりとして髪をお供えします。海外の専門業者が、それを買い取っています。
大きな樽の中で全部洗って、消毒して、すべてが同じ長さになるように整えます。日本はそれを輸入しています。
「中川かつら」では新規製作もやっておられます。レッドやブルーなどの鬘は、染めた状態の毛を買ってくるのでしょうか?それとも、ここで染めているのでしょうか?
買える毛もあるんですけど、役者さんが望むような色はなかなか売っていないんですよ。なので、うちで染めています。弟子の(原田)みゆきちゃんは、染めの仕事を専門でやってくれています。
まず、役者さんに色のサンプルを渡して、『どれにしましょう』と相談するところから始まります。
どの色もきれいですね。
『この色とこの色の間』とか要望いただくこともあります。
ここにない場合は、また新たに色を作られると。
はい。みゆきちゃんが一番、悩む仕事です(笑)。ネイビーブルー(上段、右から二番目)は、成功と失敗を重ねる中で、偶然できた色です。
上品で、舞台映えしそうな色です!
いま流行っているのは、紫系ですね。あとは、先端だけこの色にしてほしいという要望もよくあります。
増えるアルティマ(人工毛)
ホームページに「アルティマ」と書いてありました。こちらは人工毛のことでしょうか。
そうです。ナイロンの毛です。
触ってみてください。
触ると、たしかに細くてサラサラしていて、人毛とは違う感触です。でも見た目では、まったくわからないですね。
わからないです。ただ、アルティマの難しいところは、コシがあまりないんです。こうしたらよくわかります。
アルティマはなかなか立たないのですね。
網に植えたり、櫛を持っていったときにも、膨らみにくいです。もちろん、役者さんが使うときには、きちんと形が決まるように仕上げます。
ただ、制作段階では、人毛のようにはいかないですね。その代わり、アルティマは国産なので安いです。いまは、人毛の輸入が本当に高いですから。かつ、染めたとき、アルティマのほうがきれいに色が出ます。
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