かんげき2023年7月号Vol.79

舞台裏の匠たち第10回神戸の床山チーム「中川かつら」

取材日:2023年4月15日
舞台裏の匠たち 第10回 神戸の床山チーム「中川かつら」
「中川かつら」の皆さん。
前列が中川憲之(なかがわ・のりゆき)さん、後列左から弟子の原田(はらだ)みゆきさん、中川さんの奥様である中川千鶴子(ちづこ)さん、弟子の平川章恵(ひらかわ・あきえ)さん
ホームページ掲載の製作例

ホームページを見るだけで、古典から創作まで、幅広さにワクワクさせられます。鬘のメンテナンスと、新規製作の両方を行う「中川かつら」。

床山・中川憲之さんが、約17年の修行を経て、46歳で創業しました。奥様の千鶴子さんは、尼崎市の劇場「千成座」オーナーも務めています。神戸市灘区のマンションの一室にある、「中川かつら」へ伺いました。 鬘ができる工程、床山の経歴、カラフルな鬘を生み出す苦労、人毛と人工毛の違いなど、鬘のお話をた~っぷり聞きました!

中川憲之さん

鬘ができるまで

 

鬘ができる工程を、簡単に教えていただくことはできますか。

中川憲之さん(以下 中川)

はじめに、台金(だいがね)があります。

鬘のベースになる台金
中川

台金をガスコンロの上に乗せて、焼きます。刀を作るのに『焼きを入れる』というのがありますでしょ?それと同じで、焼いて固くします。また、本来は漆を塗ります。台金の形が整ったら、網に毛を植えたものを、台金に沿うようにして貼っていきます。

稽古用に、毛を一部植えた網を見せていただきました
 

網は特別な網なのでしょうか。

中川

普通のチュールに、セルロイドを溶かしたものを何回も塗って、固くしたものです。

中川

毛を網に植え終わったら、枠から外して切って、台金に貼ります。それから蓑毛(みのげ)という毛の束を植えていきます。

 

「中川かつら」では、そういったベースの部分から作業されているのですか?

中川

鬘の修理を頼まれたときは、僕らも台金を叩いたり、毛を植える作業もします。でも、この部分は、長年、一緒にやってきた仲間の専門業者に任せることが多いです。なので、僕らの主な役割は、毛が全部ついた状態で結うところからです。

完成した品には白い紙を目印に付ける
中川

いなせの鬘です。町人の頭ですね。先が曲がっていて、まるで魚の背中みたいなので、いなせっていうんです。

 

「いな」はお魚の名称なんですか!

中川

そうです。漢字で書くと『鯔背』です。

中川

こういう、後頭部の下が膨らんでいる立ち役の鬘を『袋付き』と言います。膨らんでいる部分が髱(たぼ)、横側が鬢(びん)、上の部分が髷(まげ)です。

女形の「島田」
 

結び紐などの飾りも中川さんが準備するのですか?

中川

役者さんが決めていたり、うちで用意することもあります。島田は便利な形で、娘から芸者まで被れますから、娘のときは紅い切れを掛けたり、芸者のときは白い紙を結んだり。大衆演劇の女形は、『島田』『銀杏返し』『夜会』、これらを持ってたら、ほとんどの役ができます。男は『いなせ』『二つ折り』『かっつけ』『ざんぎり』を持っていたら、だいたい、いけます。

 

鬘は結い直しのほか、「修理に出す」というのもよく聞きます。どのような部分が壊れやすいのでしょうか?

中川

網が破れてしまうことは多いですね。一番破れやすい場所は、隅。たとえば、慣れていない方だと、必ず紐を横へ開いてしまうんですが、こうやって引っ張ると…。

網を引っ張ると
 

なるほど、これでビリッと破けてしまうのですね。

中川

あとは、毛が飛び出ているのを指で押し込むのも危ないですし、台に戻すときにドーンと乗せてしまってもダメです。

 

デリケートなんですね!

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