桐龍座恋川劇団3月公演密着取材!座長二代目恋川純インタビュー
31歳、座長11年目。コロナが教えてくれたこと
長く伝えられてきた大衆演劇のお芝居はやっぱりすごい!
今日は取材に応じてくださりありがとうございました!まず、お芝居「親子情話」についてお聞かせくださいますか
都若丸劇団さんとの合同公演の時にさせてもらったお芝居です。主役を若丸座長で、 僕は今日、うちの母がやっていた役(おしん)をやらせてもらいました。
お客様がどんなお芝居が好まれるかは、時代で変わってくるのですが、若丸座長と僕が共鳴してやらせてもらえているのは、言い方は悪いんですけど、古くさいお芝居…が好き、というところなんですよね。
「親子情話」もそういうお芝居で、すごく気に入って、若丸座長にお願いして、合同公演の翌月、うちの劇団だけでやらせてもらいました。それから3、4回やっているんですけど、大好きなお芝居です。
今日拝見して、主役の辰三は座長のニンにもよく合っていて、力強いでした。
老け役も、お客様にはそれほど違和感なく見ていただいているみたいで…(渋すぎる31歳笑)。これまで色々なことをやってきて、一周して、大衆演劇の昔からあるお芝居って、やっぱりすごいなって。
ゲストさんに来ていただいて、大がかりなお芝居に挑戦することもやってきました。自分も好きだし、お客様にも喜ばれます。そういうお芝居も、もちろん良いんですけど、何にもない日のお芝居が大事やなって、最近すごく思っていて。
少ないメンバーで出来るお芝居や舞踊ショーで良かったと思ってもらえるものを目指して、今はやっています。これはコロナが教えてくれたことなんですよね。
コロナがきっかけに?
コロナ前は、お金をかけて公演をしてもそれに見合う人数のお客様が来てくださいましたが、今はお客様が減ってる状態で、そういうものをやりたくても出来ない。でも、出来ないから何もやらないと、コロナが明けた時に、他の頑張っている劇団さんとすごい差が出てしまうと思うんです。
じゃあ何を頑張るのかって言うと、今いるメンバーでの底上げと、レパートリーを増やすことを頑張りたいなって。
まさに今日の舞台がそれですね。
はい。その流れから、大衆演劇の昔ながらの人情芝居を大切にやっていきたいなって。このお芝居をくださった若丸さんにとても感謝しています。
お芝居は生き物。日々作り上げていく
また、こういうお芝居こそ、役者の腕の見せ所でもありますね。主役以外でも、例えば、大詰めで、辰三が縄をかけられる時、おしんがそっと木戸を閉めに行くところなどから、おしんの辰三を思う気持ちが伝わりました。
そういう細かい演技も、やるたびに違うし、お芝居は生きものなので、やりながら気付くこともありますし。今日も昼の部が終わってから、気づいたことを伝えたり。
幕間でも何か伝えておられましたね
毎回、アドバイスを重ねながら、お芝居をよくしていく感じです。
ご自身も演じながら周りのことも考えるのは大変と思います
違和感を覚えるんですよ、あ、この言い方じゃないなーって。で、それを伝える。もちろんそれが絶対正解というわけじゃなくて、お客様が前の方が良かったって思う時もあると思うんですよ。でも、自分の求めているものを作り上げていくために、やっぱり。
細かく積み上げていくわけですね
はい。
笑いによって何が起きるか?
そういう細かいところをお客様も見ていらっしゃると思います。今日もお客様は多くない方だと思うのですが、拍手の大きさが人数以上でした。
最後の幕が閉まってから、お客様がわーっと拍手を送ってくれているのが、幕の中にも聞こえてきました。
はい、スタンディングオベーションが起きるくらいの興奮が客席に満ちていました。
ありがたいですよね。お芝居もね、毎日暗いのもよくないですけど(笑)、こういうのがあるから、パーっと明るいのがウケるんですよね。
シリアスなお芝居でしたが、ところどころで笑いが差し込まれて、面白かったです
ずーっと暗いままやっていると間が持たないのでね(笑)。やっぱり笑いって、大事なんですよ。笑いが起きた時に何が起きるかと言うとですね。
笑いが起きた時に起きること?
お客様が近くなる。ずーっとシリアスなお芝居でも、入り込んで観てはくれてるんですけど、壁があるんです。ふっと笑わせることとで、こちらにもう一歩入ってきてくれる感じがするんです。
なるほど…!では、他のメンバーの動きも見て、お客様の反応も見ながら、演じておられるのですね(むちゃくちゃ大変…)
はい(笑)。
親子劇は人情芝居の醍醐味
「親子情話」の好きなところ、大切にされているところは
語弊があるかもですが、例えば『恋人』は、みんなにいるわけではないですよね。でも「親子」は誰にでも共通している。
子として親を思う心、親から思われている自分、親として子を思う気持ち。このあたりがお芝居の醍醐味なんじゃないかなって。夫婦関係や恋人関係より、親子のお芝居方法が、皆さんグッと入ってきやすいですよね。
あと、男の哀愁ですね。男って自分が全部背負っていくっていうのが好きなんですよね(笑)。
それもこのお芝居の大きなテーマですよね。
男のお客様には、その辺りかっこいいなあって思ってもらえるんじゃないかな(笑)。まさに涙あり笑いありという大衆演劇のキャッチコピーに、こういうお芝居は適していると思いますね。
お客様が戻ってこられた時、きれいな状態にしておきたい
コロナの間、他にも増えたお芝居があるのでしょうか。
ありますあります。『次郎長外伝』とか、今のメンバーでやれるように作ったお芝居、作り替えたお芝居…、お芝居だけでなく、要らない物は処分して、新しい物を作って。みんなの衣装ケースや化粧前も揃え直しました。
見えないところも刷新されたのですね
こういう時だからこそ、お客様が戻ってきてくれた時にきれいな状態にしておきたいという思いがあります。コロナは、お金のかけ方を見直すきっかけにもなりましたね。
一人芝居の「瞼の母」夜鷹おとら
先ほど口上で今度「瞼の母」の一人芝居をされるというお話が気になったのですが、どのようなお芝居なのでしょうか。
『瞼の母』の、夜鷹のおとらによる一人芝居です。忠太郎の存在だけでなく、出てこない母親の気持ちまで見え隠れするようなお芝居になっています。古い台本をある方から譲っていただいてやらせてもらうことになりました。
「瞼の母」の夜鷹おとらは、重要な役ですよね。
うちでは親父(初代恋川純)が演ってたんですけど、すごかったんですよ。出た瞬間みんなを笑わせるんですけど、そのあとがすごかった。出ていく後ろ姿を見て、僕は生きている間に出来るかなって思うくらい。
スノードームから生まれた特選舞踊
そして今日の特選舞踊のジオラマ舞台「梅川忠兵衛」は、舞台全体が1つの動く絵のようで圧巻でした。このショーのアイデアはどこから生まれたのでしょう。
クリスマスの時期に、よく透明の丸いボールの中に雪が降っている置物(スノードーム)がお店にあるでしょう。あれを見て、あ、こんなん舞台でやれないかなって考えたのがきっかけです。
大がかりなセットに小道具もあって打ち合わせが大変そうでしたが、前の日に一度合わせただけとか…
はい。もちろん個別には確認してますけど、照明も音楽も全部本番通りに合わせたのは昨日1回です。僕が舞台正面から見て、指示を出して。本番は舞台に出てるので、客観的に完成形を見られないのが残念ですが(笑)。
楽しいことをみんなで一緒にやっていきたい
3月28日で31歳になられて、座長21年目に入る今、役者としてのターニングポイントでは
ここからが勝負だと思っています。10年前に兄貴(恋川純弥)が抜けて、心哉くん(現・劇団心座長碧月心哉)が抜けて、風馬くん(恋川風馬 2020年退団)が抜けて、みんながいたらお客様ももっと入ったかなと思ったこともありました。
でも、どんな時も座長として乗り越えなきゃしょうがないし、今一緒にやってくれている人を大切にする方が、座長としてあるべき思いだと。いろんなことが入り混じった10年…楽しいです、すごく。
今が、楽しいと。
今がめっちゃ楽しい。やりたいと思ったことをすぐに表現出来るみんながいて。昔がそうじゃなかったとかじゃなくて、それぞれその時代で良かった。
僕自身はどん底の苦労って、してないんですよ。兄貴が抜けて大変だったけれど、それで成長できたし、親父が一から劇団を立ち上げた苦労とは比じゃないレベルなので、もっともっと苦労した方が良い劇団になるのかなって思うんです。
それには自分を追い込むことです。
自分を追い込むとは。
何も出ない時でも絞り出して新しいお芝居やショーを考えたり、もっと自分を追い込む苦労をしていけば、お客様になって返ってくるのじゃないかなって。
強豪はいっぱいいますが、やるからには一番になりたい。僕は『なんであの人たちの方が上なんだろう』って思ったことは一度もないんですよ。それだけの努力をされているからだと思っています。
それでもやるからには、一番を目指してやっていくと。6人でも12人分のパワーでやるつもりで、と、みんなに教えているところなんですけど、だんだん加齢で疲れも溜まってきますから(笑)、来年はもう1ヶ月休みを増やすなど、みんなで頑張ってやっていけたらと思っています。
みんなで出来るペースでやっていくということですね。
コロナで休みになった時に、劇団のみんなで有馬温泉に行ったんです。
その時に気づいたのは、みんなとは大変なことしか一緒にしてなかったなーって。お酒を飲んであーだこーだ喋ったり、トランプで遊んだりとか、仕事じゃないことを一緒にしてこなかったんです。
なるほど、仕事のしんどいことだけを…
『楽しいことも苦しいことも一緒にやろう』って言いながら、苦しいことばかり一緒にして、楽しいことをやるときはバラバラでした。
でも、これからは楽しいことをみんなで一緒にする時間を増やしたい。そうしないと見せる舞台が楽しくないと思うんですよね。
撒いた種から花が咲く時
舞台にも表れるのですね。
みんなオフで温泉に入って喋ってる時もね、自然と舞台の話をしてるんですよ。そういう時の方が、柔らかいものが出る。これもコロナが教えてくれました。
また、まだ早いかもですが、老後のことも考えてやらないといけない時代に来たなというのは、ずっと思っていて。
そのことは、今、多くの座長方が感じておられることだと思います。
人生は一瞬だって思っていて、今思ったことは今動かないと後手後手になっちゃうから、僕、すごく早く動くようにしてるんですけど、考えることに追いつかなくて、それが出来たらもっといい舞台を見せられるのになあって。
これまで撒いてきた種が、31歳からどんどん咲かせられたらいいなと。
僕が撒いた種にみんなが水をやってくれたんで、それを無駄にしないように頑張ろうって思っています。
5月は浅草木馬館!
最後に今ハマっていることや、リフレッシュ方法などを
舞台以外の趣味はゴルフですね~。あとはキャンプも好き。なかなか行けないんですけど、家族でキャンプに行ったりするのが、一番リフレッシュになりますね。
ありがとうございます!5月以降の予定についてお聞かせください
5月は木馬館さんで公演です。5月に乗せてもらうのは初めてなのと、同じ月に篠原演芸場には劇団美山のたかし総座長がいらっしゃるので、頑張って食らいついていけるようにしたいですね。
頑張りすぎて視野が狭くなってしまわないように、まずはみんなで楽しくやることを大切にしようと思っています。みんなで楽しくやっていますので、ぜひお運びいただけるとありがたいです!
取材メモ
「コロナがたくさんのことを教えてくれた」と言う二代目恋川純座長。コロナ禍で考えたことを次々と実践に移す行動力に驚かされました。
人生が一瞬だとしたら舞台はもっと一瞬。だからこそ、思いついたらすぐ実践!なのですね。
「梅田呉服座の社長に『人数少なくてごめんなさい』と言ったら『座長で10人分です』と言われました」と純座長。取材班も社長に同感です!!
劇団情報
桐龍座 恋川劇団
昭和61(1986)年に初代恋川純太夫元が福井県にて旗揚げ。 平成12(2000)年に長男である恋川純弥が座長襲名。 平成23(2011)年から次男である二代目恋川純が座長襲名。 芝居では二枚目から三枚目、舞踊では古典から現代劇まで こなすオールマイティな役者である座長を中心に、 枠にとらわれない幅広い内容で観客を楽しませている。
桐龍座 恋川劇団公演予定
劇場情報
梅田呉服座
大阪府大阪市北区太融寺町8-17プラザ梅田ビル5階
梅田呉服座公演予定
- 2024年11月優伎座