メイクと移動の達人file14劇団花車GOD姫京之助のつくり方
大衆演劇界の神といえば、劇団花車「GOD 姫京之助」――
なんと今回、GODの化粧中の様子を取材させていただきました。
“神の化粧前”とくとご覧あれ!
役者魂が宿った化粧前
GOD「化粧道具は、乗り込みのたびにアトムさん(KANGEKI本社)で作ってもらった箱に入れて、移動先でまた出してます。」
「化粧の時は椅子に座るようにしてますね。昔からこのスタイルです。」
「引き出しにはパフとかを入れています。使うパフはほとんどこの2つですね。」
化粧下地は何を使う?
「鬢付け油とかドーラン塗ったり、みんなと一緒じゃないかなぁ。僕はこういうオイルを塗ったり。この鬢付け油は昔の歌舞伎の時代からあるのかな。オイルは使わずにドーランだけの人もおるし、それぞれでしょうね。僕は2つを混ぜて塗ります。」
・化粧で心掛けていることは?
・化粧は誰かに教わった?
「皆さんやり口がちょっとずつ違いますもんね。僕は親と一緒にやってないんで、ほどんど独自でやっていったかな。真似から始めて、自分に合う化粧を探すのが一番いいですよね。」
「鼻筋が一番最初です。取らない人もいますね。力を入れるのは眉毛と目かな。女の人もそうじゃないですか?色んな描き方で皆さん努力されてますよね。
今の役者さんはみんな化粧が上手いよね。自分の顔が一番綺麗に見えるように色んな人の化粧をテレビとかでも見て、普段からアンテナ立てて勉強してるんじゃないですかね。
昔は大衆演劇の役者さんは手を使ってやってましたから…僕の親とかは。(道具を使わずに)それだけで化粧が済んでましたからね。」
間近で拝見していても、とっても美しいお肌。秘訣は一体…?
GODにとって化粧前とは?
「今はもうそんなことないけど、前は少しでも綺麗になりたいから、化粧前の前に座って『あぁしてこうして…』ってこの場で(化粧を)考える時もあるし、お芝居のことや色んなことを考えることがある。
人によってそういう場所があると思うけど、僕は化粧前かなぁ。一人で喋る時もある。『これでいいんかなぁ…?』って、自分に問いかける時がありますね。周りの人が見たら何やろう?って思うやろうね(笑)」
「みんな色んな描き方があるだろうけどね。化粧は20分~30分時間かかるけど、一番は化粧がスッと仕上がるような、顔に付けたら一瞬で出来るのがあればありがたいんだけどなぁ。毎回毎回化粧して…まぁしょうがないんだけど。ははは(笑)」
・長年使ってるものは?
「これは作ってから15年くらい使ってます。京都で作ってもらったんだけど、純銀製で1つ15万円くらいするの。劇団結成30周年の時にかみさん(夢路京母)がプレゼントしてくれたものです。
昔は浅草で化粧前を作ったこともあるし、化粧前だけは贅沢したいなと思う。自分の仕事場でもあるし自分の休む場所でもあるから。」
続いてアイメイク…
「役者さん専門のアイラインでルボタンっていうのを使ってたんですけど、中の成分が変わったのか、かぶれるようになったんよね。そんな理由で変えました。」
・化粧は息子さんたちへ教えていた?
「最初は教えてあげたけど、自分でお化粧しだした方が綺麗ですよね。自分の顔は本人じゃないと分かんないでしょう。研究して自分の顔を作り上げるんじゃないですかね。眉毛の描き方とか、線の入れ方とか、人の化粧をそのまま真似してもその人に合わなかったりするよね。」
「こういうのが一番役に立ちますね。目のラインががプツッと切れんようにボカしたり。ちょっとしたことやけどね、自分の顔の一番いいところを見付けると、これだけは譲れないなっていうのが出てくる。ラーメン屋さんと一緒で、自分の顔の隠し味をどう上手く表現するかやね。そうすると顔が美しくピタッとくる。」
・化粧の方法は変える?
「僕はあんまり変えないタイプかもしれないですね。目の下にちょっと書き足すくらい。昔はこういうのしてなかったですよ。(黒シャドウでボカすこと) 『こうした方が今の顔になるかな』とか思うと、いつの間にかするようになりましたね。また元に戻る時もあるし…(笑)」
昔の人からの教えは確かなもの
「昔、24の時に僕が藤山寛美さんに教えてもらったことは今、役に立ってます。すごい人が言った言葉って、若い時は『自分流があるから』って突っ跳ねても良いけど、それを覚えてるか覚えてないかで違ってくる。
その時はそうかな?ってなるし化粧でも自分流があるけど、ある程度年代になったら言ってた意味が分かるし、その通りなんだよね。今までやってきた先輩たちがやってきたことっていうのは確かですよ。
ことわざでも『糠に釘』とか『背に腹は代えられない』とかあるけど、それって今意味が分かるでしょう?その通り。おばあちゃんとかおじいいちゃんとか、昔の人の言うことは間違いない。」
~メイク完成☆~
・先輩からの教えを劇団の皆さんに伝える?
「僕がこうして喋ることを聞いといてくれたら良いかなと思う。今喋っていることは自分に対しても“忘れるな”って気持ちで喋るし、人に教える時も自分に言い聞かせる。
役者さんの仕事は歌舞伎もありますけど、僕は大衆演劇の役者をするために生まれてきたんやなぁと思う。来年で50年ですよ、この仕事。僕は中学卒業してから高校へは行かずに14歳の時が初舞台です。これまでで一番今が大変な時期かも知れない。
考えようによっては良いこともたくさんあったし、劇団をもって孫にも会えて、過去でこの年はお客さんがいっぱい来てくれてたなぁって時期もあったから、今はこれで帳尻が合うんかなと思う。
全部プラス思考に切り替えて、将来のことを考えるのは自分の自由。マイナス思考じゃダメだし、お客さんに観てもらう仕事だから自分たちがマイナス思考だったらお客さんがダウンしてしまう。だからプラスにプラスに…。良いことばっかりでもないし、悪いことばっかりでもない。だから次は良くなると思うし、良くなって欲しいよね。」
化粧のお話のみならず、役者としての人生観など、心にグッと響く貴重なお話をたくさん伺いました。きっと、GODにとって「化粧前」はただ準備をするスペースではなく、「自分の心と向き合える場所」だったからでしょうか。
GODは舞台裏でも、“神”でした!
劇団情報
劇団花車
九州大衆演劇界の人気役者・初代姫川竜之助の長男である姫京之助が、 初代藤ひろしや藤山寛美のもとで腕を磨き、昭和58年(1983)に旗揚げ。 平成19年(2007)に長男の姫錦之助、平成28年(2016)に三男の姫勘九郎が座長襲名。 唯一無二の個性で観客を魅了し、様々な感性が飛び出す玉手箱のような劇団である。