KANGEKI2021年4月号Vol.57

木戸番のエッセイ・天職先は大衆演劇!正舞座颯天蓮後編(2/5)

木戸番のエッセイ・天職先は大衆演劇! 正舞座 颯天蓮 後編(2/5)


フリー時代

6年間修業して、蓮が37歳の時に正大と結婚。 二人は新しい劇団を作るために、劇団紫吹を円満に退団する。正大はフリーになり、蓮はそのサポートをする。

蓮はたちまちの生活を考えた。正大は「大丈夫」とは言うが、芝居や踊りにしか思考回路が働かない男に、生活なんて頭の片隅にもない。 蓮はフリーを雇ってくれる劇団を探そうとしたが、正大がフリーになったとたん、いろんな劇団からオファーが来てスケジュールが埋まった。本当に助かった。

蓮は正大のお付きで回っていたが、お邪魔した劇団にお願いして芝居や舞踊ショーに出してもらった。 知らない芝居や踊りは本当に大変で、実践の場で、蓮は鍛えられていく。

普通、劇団は踊りついては練習に練習を重ねて、また芝居も稽古に稽古を重ねて、本番を迎える。 しかしフリーは、今日稽古に参加させて頂いて、明日本番である。 台詞が長くても短くてもである。

蓮は当時を思い出し苦笑する。 付けてもらった台詞が飛んでしまって、頭がまっ白になった。さすがに相手がベテラン役者だったので、何とか乗り越えたが、公演後すぐに謝りに行った時も「いいよいいよ」と笑顔だったが、目は笑ってなかった。

颯天蓮2019.5.11@がんこ座(本家真芸座にゲスト出演)

筆者はこんな場面に遭遇した。
あがりゃんせ劇場、2016年(平成28年)11月に澤村慎太郎が乗った時の話である。 その日は慎太郎の誕生日。サプライズで親友の片岡大五郎が登場するという段取りであったが、スタッフは体格のいい片岡大五郎を隠すのに手いっぱいで、慎太郎との踊りの話は出来ずじまいだった。

舞台で踊る慎太郎。そこにいきなり現れる大五郎。 ここで曲が止まってトークが始まると私は思っていたが、なんと大五郎は、曲も知らないのにみごとに相舞踊をみせた。素人の私は驚いた。「なんでそんなことができるのか。なんだこの絶妙の間は」大衆演劇の強さを見せてもらった。

 

正大と蓮はフリーの仕事を始めると、敬愛する恋川純弥が博多新劇座でフリーの座長ばかりを集めた舞台をするということで、お招きをいただいて参加した。

正大は恋川純弥から芝居も振付も猛烈に刺激をうけて、積極的に自分のものにした。そこで知り合ったフリーの役者とは、いまだに交流があるという。 非常に勉強になり有益な公演だったと、正大は振り返る。

そんな時、純弥から背中を押されて、正大は旗揚げを決意する。

恋川純弥劇団に参加する颯天蓮(後列左)と要正大(前列左)
2019.7.8@羅い舞座京橋劇場