木戸番のエッセイ・天職先は大衆演劇!第10回寿かなた前編(3/4)
Ⅲ
19歳になった恵の姿は長野県にあった。当然、遊んではいられない。車のない恵は家から通える職場を探す。
ちょうどその時、近所でステーキのチエーン店がオープンした。オープンスタッフの 一員となった恵は、パントリーでパフェづくりに専念した。 そこの職場は楽しかったし、やりがいもあった。おまけに、おいしいまかないにも満足していた。 しかしこの仕事は一生の仕事ではない。という思いが、恵にはあった。
そんなある日、とある病院が「看護助手」を募集しているとの情報が入った。
「これだ!」恵は、感じた。
恵は、常々、人の役に立つ仕事につきたいという思いがあった。 そんな時に看護助手の話である。医療のチームの一員となって働けるのである。 恵は、その足で病院に行き、手続きをして看護助手として働くことになった。
看護助手とは、主に患者の世話や看護師のサポートをする仕事で、特別な資格は要らない。患者さんの食事や入浴の介助、排泄介助、オムツ交換、シーツの交換などをして、直接、寄り添ってきた。
なんやかんやで、2年の歳月が流れたある日、何人かの看護師と一緒に仕事をこなしていた時。一人の看護師が恵に言った。
「あなたのやっている看護助手。私たちには本当に助かるけど…、あなた自身のスキルアップにはならないよ。怖いかもしれないけど、看護学校に行って看護師になったほうが、あなたのためよ」
実は薄々は考えていた。が、その看護師の話を聞いて、彼女の上昇志向に火がついた。
Ⅳ
看護師には2種類ある。正看護師と准看護師である。
看護師になろうとおもうと、高校以上を卒業したものは、看護学校を受験して、合格すれば制度によって違いはあるが、3年制・4年制・5年制と、医療の勉強をして、看護師試験(国家試験)を受けて合格すれば「正看護師」になれる。
恵の場合は中学の卒業である。 こちらは「准看護師」を目指す。看護学校を受験して、合格すれば2年間看護の勉強をして、看護師試験(都道府県試験)に合格すれば「准看護師」になれる。
さて「正看護師」と「准看護師」の違いだが、「正看護師」は医師の指示で医療行為を行う、それに対して「准看護師」は「医師・正看護師」の指示で医療行為を行う。
現場では、忙しい正看護師を助ける准看護師は重要で、社会的需要は十分にある。
受験勉強が、始まる。
恵にしてみれば、しばらく離れている勉強であった。 一般的に、看護学校の入試は中学レベルで、高校入試程度で難解ではない、 しかし、恵にとっては決してやさしい入試ではない。
それに、看護助手の仕事は毎日しっかりあって、すでに現場ではたよりにされている。 受験勉強のペースがつかめないまま時間が過ぎていく。 1回目の挑戦では、桜は無情にも散った。
看護学校の浪人生は、いくらでもいる。「ドンマイ!」と自分に言い聞かせるが、1年に1度のチャンスである。
中学の国語、数学などの総復習をしようと、恵は心に誓い、塾にも通った。しかし、看護助手のキツイ仕事をこなしながらでは、計画通りにはいかない。補欠合格まではいったが、2回目の挑戦も失敗に終わった。
そこで、恵は、環境を変えようと思い、仕事も変えた。 今度は、デイサービスの会社に勤めた。そこでは時間的な余裕もできて、勉強も進んだ。それに2年間の基礎がある。そして3回目の受験である。
これは、恵の心のつぶやきである。
ネガティブな恵は思った。受験でもうすでに2回も失敗している。 「2度あることは3度ある。」 いやいや、ポジティブな恵が言い返す。
なんのなんの、1回2回の失敗は、ご愛敬。 「3度目の正直。」よ。
そして、合格発表である。見事、ポジティブな恵が勝って、無事、恵は看護学校に合格した。まさに「3度目の正直。」だった。