KANGEKI2021年3月号Vol.56

旅芝居女優名鑑第2回辰己小龍(3/6)

取材日:2021年2月9日
旅芝居女優名鑑 第2回 辰己小龍(3/6)

小龍の脚本づくりに迫る!

きっかけはたつみ座長の依頼から

日々舞台で演じる傍ら…いや、「傍ら」と言うのは適切ではない、小龍の大きな役割が脚本作り。

歌舞伎や新派劇の演目をたつみ版にアレンジしたり、劇団の昔のお芝居をリメイクしたりと、新作発表のペースから考えると、ほぼ毎日、お芝居作りをしていると言えるのでは。

初めて台本らしいものを書いたのは『荒川の佐吉』だったかな。 たつみ座長から(口立てだけでは)セリフがややこしいから本に書いてと言われたのがきっかけです。長女を妊娠していた時でした。

また自分が演りたくて書いたのが『切られのお富』。

そのうち「この役はあの人が演じたらいいな」とか、自分が演りたい役より芝居そのものを考えるようになりました。

書くようになってからの方が芝居が楽しいです。 あの人にこのセリフ言わせようって職権濫用できますしね(笑)。

『忠僕直助 誉れの向こう槌』左より小泉ライト、小泉龍之介、辰己小龍、小泉たつみ (2021.1.24@朝日劇場)

大衆演劇では、上演に時間がかかり過ぎるものや、難解なテーマは避けるべき。
さまざまな制約がある中で諦めず、物語を伝えるための工夫が凝らされていることが、見て取れます。

見せ場をたっぷり見せるためには、出来るだけ前振りは端折りたいですよね。 本当は説明じゃなくて演じて見せたい。でもそれをやっていると、場を増やさないといけない。

そんな時に便利なのが「ストーリーテラー」を使うことです。

ただ、それがパターン化したらあかんので、色々なストーリーテラーの出し方を毎回考えます。 『河内十人斬り』では音頭取りが説明したり、先日上演した『忠僕勘助』では色々な人に喋らせたりとか。

幕間で物語の流れを語るストーリーテラーを兼任(2021.1.24「忠僕直助」)
幕間で物語の流れを語るストーリーテラーを兼任
(2021.1.24『忠僕直助 誉れの向こう槌』)

書けば書くほどハードルが上がる。でも作品への愛情も増します。

脚本を書くと全役を好きになるんです。
どれもこだわったセリフを入れてますので、許されるなら全部やりたいくらい(笑)

脚本は年に最低3本は書く
(写真は辰己小龍ブログより)

2ヶ月悩んで完成した
『夜叉ヶ池』

どの作品も思い入れのあるものばかりなので、選べない。
では、産みの苦しみだったのは?

『夜叉ヶ池』です。2ヶ月、悩み続けました(笑)。
まず、受け入れてもらえるかどうかの心配がありました。
大衆演劇では絶対やらない芝居で…本来、もっともっと静かなお芝居なんです。
最初が説明だらけで鬱陶しいし、着ぐるみみたいなの出てくるし(笑)、「何これ?学芸会か」と思われるのではないか、ではそう思われないためにどうするか。

まずはストーリー。

本来は無い序幕を作って、誰かを悪者に仕立てることで、わかりやすくなる。欲に目が眩んで心を失っていく村人、恋によって人間の心を持っていてしまう妖怪…それらが混ざり合って、1つの結末につながっていく。

『夜叉ヶ池』上演後の舞台挨拶
2016.9.18 @篠原演芸場
(撮影:お萩)

次に見せ場作り。

”釣鐘落とし”や大洪水の場面などの見せ場を作って、2役することも考えました。
ずっと同じ場面なので絵面(えずら)を考えないといけない。
主人が舞台道具に詳しいので「こうやったら釣鐘落とせるよ」と教えてくれて、実現しました。 作る段階から相談できるのでありがたいですね。

『夜叉ヶ池』上演後の辰己小龍
2016.9.18 @篠原演芸場
(撮影:お萩)


脚本作りで大切にしていることは…

上演時のメンバーを思い浮かべて書くこと。「当て書き」ですね。
だから初演がベストメンバーになります(見逃せない!)。
原作より観やすかった、面白かったって言ってもらえるのは、演者に合わせて書いているから。演じる人が無理なく、板についた感じがあるからだと思います。

「夏祭浪花鑑」お辰(辰己小龍)と三婦(浅井正二郎)(2017.9.20@朝日劇場)
『夏祭浪花鑑』お辰(辰己小龍)と三婦(浅井正二郎)(2017.9.20@朝日劇場)

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