旅芝居女優名鑑第2回辰己小龍(3/6)
小龍の脚本づくりに迫る!
きっかけはたつみ座長の依頼から
日々舞台で演じる傍ら…いや、「傍ら」と言うのは適切ではない、小龍の大きな役割が脚本作り。
歌舞伎や新派劇の演目をたつみ版にアレンジしたり、劇団の昔のお芝居をリメイクしたりと、新作発表のペースから考えると、ほぼ毎日、お芝居作りをしていると言えるのでは。
初めて台本らしいものを書いたのは『荒川の佐吉』だったかな。 たつみ座長から(口立てだけでは)セリフがややこしいから本に書いてと言われたのがきっかけです。長女を妊娠していた時でした。
また自分が演りたくて書いたのが『切られのお富』。
そのうち「この役はあの人が演じたらいいな」とか、自分が演りたい役より芝居そのものを考えるようになりました。
書くようになってからの方が芝居が楽しいです。 あの人にこのセリフ言わせようって職権濫用できますしね(笑)。
大衆演劇では、上演に時間がかかり過ぎるものや、難解なテーマは避けるべき。
さまざまな制約がある中で諦めず、物語を伝えるための工夫が凝らされていることが、見て取れます。
見せ場をたっぷり見せるためには、出来るだけ前振りは端折りたいですよね。 本当は説明じゃなくて演じて見せたい。でもそれをやっていると、場を増やさないといけない。
そんな時に便利なのが「ストーリーテラー」を使うことです。
ただ、それがパターン化したらあかんので、色々なストーリーテラーの出し方を毎回考えます。 『河内十人斬り』では音頭取りが説明したり、先日上演した『忠僕勘助』では色々な人に喋らせたりとか。
書けば書くほどハードルが上がる。でも作品への愛情も増します。
脚本を書くと全役を好きになるんです。
どれもこだわったセリフを入れてますので、許されるなら全部やりたいくらい(笑)
2ヶ月悩んで完成した
『夜叉ヶ池』
どの作品も思い入れのあるものばかりなので、選べない。
では、産みの苦しみだったのは?
『夜叉ヶ池』です。2ヶ月、悩み続けました(笑)。
まず、受け入れてもらえるかどうかの心配がありました。
大衆演劇では絶対やらない芝居で…本来、もっともっと静かなお芝居なんです。
最初が説明だらけで鬱陶しいし、着ぐるみみたいなの出てくるし(笑)、「何これ?学芸会か」と思われるのではないか、ではそう思われないためにどうするか。
まずはストーリー。
本来は無い序幕を作って、誰かを悪者に仕立てることで、わかりやすくなる。欲に目が眩んで心を失っていく村人、恋によって人間の心を持っていてしまう妖怪…それらが混ざり合って、1つの結末につながっていく。
次に見せ場作り。
”釣鐘落とし”や大洪水の場面などの見せ場を作って、2役することも考えました。
ずっと同じ場面なので絵面(えずら)を考えないといけない。
主人が舞台道具に詳しいので「こうやったら釣鐘落とせるよ」と教えてくれて、実現しました。 作る段階から相談できるのでありがたいですね。
脚本作りで大切にしていることは…
上演時のメンバーを思い浮かべて書くこと。「当て書き」ですね。
だから初演がベストメンバーになります(見逃せない!)。
原作より観やすかった、面白かったって言ってもらえるのは、演者に合わせて書いているから。演じる人が無理なく、板についた感じがあるからだと思います。