KANGEKI2022年12月号Vol.74

旅芝居女優名鑑第9回中村美嘉~劇団美山~(3/6)

劇場:池田呉服座取材日:2022年10月12日
旅芝居女優名鑑 第9回 中村美嘉 ~劇団美山~ (3/6)

第3章「毒婦」の笑い

楽しくなってきた20代

姉の中村りかが退団してから、美嘉に役が回ってくるように。初めて大きな役をもらったのは「一本刀土俵入」のお蔦でした。

20代前半の時で、初めて演ったのは三重のユーユーカイカン(現・ゆうゆう会館)でした。2階のセットが作れないので、二重(*)でやってましたね。台本はなく、口立てで稽古してもらって、ひたすら覚えて。どんな言い方したらいいやろって、ずっと稽古して、稽古しすぎて、「やりすぎもあかんよ」って言われました。

*二重(にじゅう):舞台の高さより一段高くしたセット。

中村美嘉なかむら みか
2022.4.26 梅田呉服座

他の方の演技を観て参考にするとかはなかったです。私、㐂代子先生と総座長のお芝居しか観ないので……。 「一本刀土俵入」は、何年か後になって、勝新太郎さんが出ている映画版を観たくらいですね。

中村美嘉なかむら みか
2022.10.12 池田呉服座

役がつき始めた20代から、劇団としても人気が上昇。舞台がどんどん楽しくなっていったという美嘉。

辞めようと思ったことは何度もあります。でも結局は元の鞘に戻るというか、やっぱ(舞台が)好きなんやと。

劇場公演で初めて乗ったのは鈴蘭南座でした。その時、自分達で言うのもおこがましいんですが、人気が出始めた時で、こんなにお客さん来てくれるんやって、初めて楽しいと思いました。

辞めたい、帰りたいと思ったのは地方のセンター回りをしていた10代の頃の方が多かったですね。

20代になって、劇団の人気が上がって、いろいろな劇場に乗れるようになって、役幅が広くなって、しんどさより楽しさの方が大きくなりました。

劇団美山
2022.10.12 池田呉服座

「毒婦の笑い」に苦しむ

演技の壁にぶち当たったことは。

スランプ、めちゃめちゃあります。「鬼あざみ」というお芝居で、初めて「毒婦」の役をつけてもらった時です。 毒婦の笑いというのが出来ないんです。

「ここでこうセリフを言って笑うんぞ」って言われても、恥ずかしくて出来ない。総座長が「はよ笑え!」とめっちゃ怖くて、でも出来なくて逃げ回っていました。

今からは考えられない話です。

やっと毒婦を演る面白さがわかってきて、今では大好きです。出来るようになったら気持ちが楽になりました。楽しいな、毒婦ってこんな感じなんやと。

なんかね、化粧してピンマイクつけたら変わるんですよ。ピンマイク限定なのか、口上で普通にマイク持って喋るとかは苦手で、いまだに出来ません(笑)。

「種子島大作」のお藤の扮装で。愛猫おはぎくんと

ピンマイクをつけたらスイッチが入る。女優・中村美嘉、誕生。

毒婦では「種子島大作」のお藤が一番好きかも。だいぶ入り込んじゃってますね。

泣きのお芝居も大好きです。自分に合っているからか、入りやすいです。 立役はほとんどなくて、セリフのない子分か斬られ役か、ヘラヘラした若旦那をやるくらいですね。

中村美嘉(なかむら みか)
「無法松の一生」
2017.12.9 梅田呉服座

失敗してもドヤ顔で乗り切ります。

やらかしエピソードはありすぎて出てこないです(笑)。

ドス(刀)を忘れて出てしまうとか、小道具の忘れ物が多いかもしれません。タイミングを計って取りに行って、ドヤ顔で出てくる。セリフを噛んでも間違ってませんって顔をします。突っ込ませないんです(笑)。

中村美嘉なかむら みか
愛猫コスギちゃんと

中村美嘉演出「漆黒の羽」「お吉物語」

ある年から、自分の誕生日公演のお芝居を自身で手がけるようになりました。

2020年の誕生日公演で演った「漆黒の羽」というお芝居は、「種子島大作」のお藤がなんで極悪人になったかを自分で考えて作ったものです。

今年は「お吉物語」。元々劇団でもやってるんですけど、それをちょっと変えて、篠原企画さんからいただいた台本から自分の好きなところを付け足して、作りました。

美山ではみんなお芝居を作るので、触発されて作るようになったんですが、楽しいですね。難しい時は総座長に相談しながら、やっています。

中村美嘉祭り
2021.10 池田呉服座
左より 中村美嘉、里美こうた
梅田呉服座

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