かんげき2024年4月号Vol.88

木戸番のエッセイ・天職先は大衆演劇!第28回おおみ愛里~おおみ劇団~前編(2/3)

劇場:スパリゾート雄琴 あがりゃんせ
木戸番のエッセイ・天職先は大衆演劇! 第28回 おおみ愛里 ~おおみ劇団~ 前編(2/3)

木戸番の不在でも現場は混乱するのに、代わりのいない役者に異常事態がおきると、もろに芝居に影響がでる。

ある劇団に起こった出来事であるが、お客様のリクエストで劇団十八番の「白波五人男」を演じることになり、お客様もたいそう期待してきた。

「白波五人男」とは、悪党だけど何とも憎めない5人の盗賊団の物語である。
日本駄右衛門をリーダーに「南郷力丸」「赤星十三郎」「忠信利平」「弁天小僧菊之助」の5人からなるが、その日は、翌日の本番リハーサルが行われた。

「南郷力丸」役の役者が、舞台で使う重りの「ブロック」を誤って足に落としてしまったのである。足はみるみる腫れ上がり、病院に直行。やはり複雑骨折を起こしていた。役者の換えはいない。劇団として演目の変更も考えたが、「南郷力丸」役の役者は「自分のミスなのでやりたい」と言いはった。

1時30分、「白波五人男」が定刻通りに始まった。

日本駄右衛門の台詞からはじまり、弁天小僧が「知らざあ、言って聞かせましょう」と声をはる。「利平」「赤星」と続いて、最後に「南郷力丸」である。

『さて、どん尻に控えしは、磯風荒れえ小ゆるぎの磯馴の松の曲がりなり、人となったる浜育ち、仁義の道も白川の夜舟に乗り込むのりこむ舟盗人、波にきらめく稲妻の,白刃で脅す人殺し……』

台詞が終わると。痛めている足で、舞台の床を蹴って、見得をきる。
この事故をお客様の大半は知っていて、「南郷力丸」の熱演と役者魂に拍手を送った。
ハンチョウをとばしていたお客様は「もう怪我するなよ。」と大きな声で叫び、涙でいっぱいの赤い目で、拍手を送っていた。

一人の劇団員でも大変であるが、座長に異変があると劇団はさらにたいへんである。
その日の朝まで、元気そうに見えていた座長であったが、昼の部が終わって座長は突如、化粧前で倒れた。

座員が座長に近づくと、普段から辛抱強く屈強の座長も、自らが救急車を呼んだ。そのまま、病院で治療をうけたが胃潰瘍と膵炎であった。この膵炎は、非常に痛いらしい。
座長は、その責任感からか、膵炎の痛みをかなり前から我慢をしていたらしい。
結果、座長は10日以上の入院であった。その間、いろんな劇団から座長クラスの役者が応援に押し寄せた。
持つできもの者は、友である。
退院後、座長はお客さんと劇場に詫びた。舞台に頭をこすりつけて、いくえにも詫びた。

しかし、役者も人の子である。怪我や病気はつきものである。

おおみ劇団の女優、おおみ愛里も例外ではない。おおみ愛里も、令和5年8月、劇団が長崎大衆演劇場美山で公演中に倒れた。
原因は、自己免疫疾患という病気で、関節リウマチである。比較的、女性に多い病気で、病変が多臓器におよぶ原因不明の難病であった。

1ヶ月の入院生活の後、おおみ愛里は劇団に戻った。
口上挨拶の時に、おおみ愛里が劇団に戻った事を、座長のおおみ達磨が報告した。
座長とおおみ愛理とは同い年である。そして同じ中学校の出身である。
この同級生のおおみ達磨との出会いが、おおみ愛里の大衆演劇の女優としての人生をスタートさせたのである。

さて、今回は、この「おおみ愛里」を追ってみよう。

おおみ愛里おおみ あいり