KANGEKI2021年2月号Vol.55

木戸番のエッセイ・天職先は大衆演劇!美月凛(紀伊国屋劇団)後編(2/4)

木戸番のエッセイ・天職先は大衆演劇! 美月凛(紀伊国屋劇団)後編(2/4)


見習い修行の日々

  凛は仕事を辞め、いよいよ紀伊国屋劇団のメンバーである。

  一般的な企業に勤めると、まずは新人研修係がいて、劇団とは何か?いう総論から始めて、化粧とは、着物とは、かつらとは、などの各論に進み、時間をかけて教えてもられるが、そんなものはここにはない。

  見習い劇団員は、下働きが待っているが、仕事の内容など誰も教えてくれない、言われたことに反応して、とにかく動くこと。疲れたとか、おなかが空いたとかそんな余裕もない。

  スタイルはGパンとTシャツで、顔の右半分を澤村舞に化粧をしてもらい、左半分を自分で化粧する。なんともアンバランスではあるが、この格好で先輩役者の世話をする。あ~、彼には見せられないな。もっとも凛には彼はいなかったから、余計に複雑だった。恋も御法度!

  1日の舞台が終わると、センターでは食事とお風呂を済ませ、舞台に戻ってお芝居や舞踊ショーの稽古をする。出番のない見習いの凛は、聞き耳をたてるしかない。

美月 凛

  そんなある日、とんでもないことが起こった。明日、照明担当が休むのである。 凛に照明担当がまわってきた。照明担当は「投光」といわれ、舞台の演出上、非常に重要な部門である。

  お芝居の内容を理解し、観客が見たいところを照らすのである。 おちょこに教えてもらって、なんとか出来ると思った。

  まだまだ作業は続く。次の日の準備である。 仕事は分担されるが、凛もすべての仕事を積極的にこなして、覚えた。

  まずは舞台。大道具の用意(棟梁の手伝い)、小道具の整理。楽屋では座長の化粧前の水の用意から衣装の準備、着物にアイロンをかけたり、帯やひもの準備。履物のセットも大切な仕事だ。すくに、22時、23時になる。 お疲れさまの声を掛け合いながら、宿舎に戻る。

  朝10時に楽屋入り、全員で今日の総復習。 すべての指示は座長である。音楽の使い方、きっかけも指示する。 座長は、親であり、お釈迦様であり、キリスト様であり、いわゆる神である。

  本番前の、着物、帯、帯締め、かつら、履物までをセットして先輩に確認してもらう。 その隙に、化粧の仕方を盗む。教えてもらえないから、盗む。盗んでも怒られない。 へたをすると褒められる。

左から美月凛、おちょこ、澤村健太郎

  1週間ほど経ったころ、楽屋の神から、着物を着るように命じられた。 着物を着てみた。歩きにくい、走りにくい、すべての作業がしにくい。 凛にとっては芝居養成ギブスである。 でも不思議と内股が身につき、物腰がジャパニーズになる。 1ケ月も経つと、かつらをあてがわれた。 これで、化粧、着物、かつらと、芝居の3種の神器が揃った。

  やるぞ!凛。

何でもした。誰もがいやがる仕事は凛の仕事であった。 入団して、下働きの基本から始まり、先輩役者の手伝い。 座長の言いつけも、完璧にこなした。負けたくはなかった。

  大衆演劇の修行とは、今起こっていることは役者がする。次に起こることを、すばやく察知して、ミスを少なくする。 仕事はあてがわれるものではなく、先回りしてする。そして、余裕を持つ。そうすれば、先輩役者も安心して芝居や舞踊ショーに、集中できる。そして信頼してもらえる。 そのことに気がついたときには、凛は26歳になっていた。

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