KANGEKI2021年9月号Vol.61
木戸番のエッセイ・天職先は大衆演劇!第8回澤宗小春~劇団澤宗~(5/5)
Ⅳ
劇団というものは、一夜限りの、何の実体もないまぼろしを作るために、役者が稽古に明け暮れる。そんな役者が日本中に1,000人以上いて、ほんの数時間のまぼろしの為に人生を捧げている。
小春がその末席をつとめているのは、間違いはない。劇団が「あがりゃんせ劇場」にいるのは1ケ月。その間、筆者は役者を見続けている。 小春は、日単位で変わっていく。芝居も踊りも、雰囲気さえも……。
もうひとり、小春が劇団「澤宗」の正式団員になってから変わった人がいた。 母親の容子である。
容子は、小春の初舞台は、とめどなく涙が出て、芝居も踊りも見えなかった。
「私の知らない世界にとびこんでいって、私には手もだせない。私は、ただただ、怖かった。失敗するじゃないかと。 でも、結局大切なのは、小春の気持ちだし、彼女の生きがいの見つけ方、わかりやすく言うと、彼女の人生なのにね……。いまは、素直によかったと思う」
小春が入団してからは、容子は一番の理解者であり、ファン1号である。
ところで、いっとき、一緒に劇団でがんばってきた妹は、どうしたのであろうか?
彼女は、興味の対象がかわってきた。 今は、美容関連の専門学校に通って、メイクアップアーティストを目指している。
とにかく、人生の岐路に立った選択は、摩訶不思議で興味深いものである。
プロフィール
小野直人
生年月日 | 1953年 |
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1953年 滋賀県大津市生まれ。日本大学・農獣医学部卒業。
小野牧場オーナー、総合学習塾 啓数塾塾長、構成作家(テレビ、ラジオ)を経て、現在は、あがりゃんせ劇場の木戸番として、多くの大衆演劇の劇団や幅白い大衆演劇のファンと交流をもつ。「KANGEKI」で「木戸番のエッセイ」を連載中。