かんげき2024年7・8月号Vol.90

木戸番のエッセイ・天職先は大衆演劇!第30回恋月彩圭前編

劇場:スパリゾート雄琴 あがりゃんせ
木戸番のエッセイ・天職先は大衆演劇! 第30回 恋月彩圭 前編

大衆演劇の劇団の多くは座長とその家族で構成されている。 役者の家系に生まれた、いわゆる幕内の人間が過半数を占める中、一般家庭から役者になった人もいる。 何がきっかけでこの世界と出会い、日々過ごしているのだろうか? 劇場オープンから8年、木戸番兼劇団のお世話係を務めてきた著者が綴る実録エッセイ。 第30回は恋月彩圭編・前編です!

はじめに

駐車場をゆっくり歩く。空に1羽、ビルに1羽、声をあげない烏の視線を感じる昼に近い朝である。
「あがりゃんせ劇場」の木戸番である私は、午前11時には「あがりゃんせ」に到着する。

あがりゃんせ劇場に直行すると、劇場の舞台を使って劇団は稽古を始めている。
たしか昨夜は、夕食後8時30分から、稽古を始めていたように思う。
あがりゃんせ劇場はシステム上、深夜12時までしか使えない。
限られた時間を使って劇団は稽古をするのである。
特にゲストを迎えている場合は稽古も入念で、費やす時間も多い。

普段の稽古量は劇団によって変わるが、果敢に新しい出し物にチャレンジする劇団にファンの受けもいい。 劇団によらず、大概は朝の30分ほど群舞のおさらい(稽古)をすることはよく見られる光景である。

ドジャースの大谷翔平選手は、効率的な練習をすることで有名であるが、彼の場合野球の練習であって稽古ではない。
踊りは練習とはいわず、稽古という。
水泳は、練習。ピアノは、練習、稽古。なんとなく難しい。
とにかく、踊りは稽古である。

 

私は、踊りを「舞踊」という言葉であらわすこともある。例えば、「舞踊ショー」のように。ものの本に、「舞踊」は「舞」と「踊」を合わせた造語だという記述があった。

「舞」は、日本に古くからある踊りの形で重心を下に置き、旋回を基本とした動きのものを指す。

それに対して、「踊」とは、跳ぶを基本に、洋楽のダンスなどと同じく上に引き上げる動きの物になる。 現在、日本ではいろんな踊りがあるが、日本独特の踊りに「日本舞踊」がある。 そこから派生したものに「新舞踊」がある。 昨今、舞踊業界ではこの「新舞踊」に人気があると聞く、では・・・。

そもそも新舞踊とは、なにか。

「新舞踊」は、大正期に、坪内逍遥・小山内薫らがおこした新舞踊運動によってできた日本舞踊のジャンルである。 新舞踊運動によって、舞踊家の‘振付をし、演じる’というスタイルが確立。役者や振付師などのお師匠さんたちが、独自に公演をするようになった。

すると、音楽(バックグランドミュージック)も自ずとかわる。 日本舞踊で流れる謡曲とは違い、演歌、歌謡曲、民謡といった現代に馴染みのある曲を自由に創作して踊ることになる。

先人は、日本の伝統芸術である日本舞踊をもっとわかりやすく親しみのあるものにしたのである。

あがりゃんせ劇場(左が筆者)

その「新舞踊」を3歳からはじめ、稽古につとめて19歳の時に名取りになった、そんな 女優がいる。

現在44歳の女優といえば、海千山千のベテランをイメージするが、このエッセーの取材を始めるとき、その女優は、開口一番「もっと早くに、芝居を始めていればよかった。」と打ち明けた。

さて、その女優。どんな事情のもと、そんなことを言い出したのであろうか。 今回は、現在「劇団 寿」に籍を置くフリー座員「恋月彩圭(こいづき・さいか)」の奇想天外な踊り子人生をご紹介したい。

 

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