旅芝居ささえびと第2回川越湯遊ランド劇団担当・芝田卓朗さん「お客様を待つ仕事」のやりがい
埼玉県川越市・川越湯遊ランドの3階にある、大衆演劇場と食事処を兼ねた「小江戸座」。芝田卓朗さんは、ここでお客様を迎えるスタッフの一人です。
劇団担当とホールスタッフを兼任。ですが時折、公演劇団から「芝田さん、舞台に出てよ」と誘われたときは、本格的な舞台人スタイルに変身!
穏やかな芝田さんの心に秘めた、接客と舞台へのプロ意識とは?お話を伺うと、独特の優しいトーンで話してくれました。
大衆演劇のことは全然知らなかった
「小江戸座には芝田さんに会いに来る」というお客様もいるくらい、親しまれている存在です。川越湯遊ランドに勤めて、どのくらいになるのでしょうか。
そこまで長いキャリアはないです(笑)。7、8年だと思います。最初はアルバイトで入って、その後、社員になりました、最初は事務の方に配属されて、2、3年は事務をしていました。でも、その頃は大衆演劇のことは全然知らなかったです。
初めて大衆演劇を観たのはいつでしたか。
社員として入って、すぐのときです。上司の方が館内を案内してくれて、館内でやっている催し物を、一通り紹介してくれたんです。多分そのときはお芝居だけ観たんですけど、セリフが馴染みのない言葉ばっかりだったので、聞き取るのが大変でした。
でも、事務をやっていた頃は、大衆演劇を観たのは最初の一回だけでしたね。3階の劇場に行くことも、あまりなかったんです。それが2~3年後の春、会社で全体的な異動があって、たまたま僕は3階の劇場のほうに配属になりました。
小江戸座は、お客様が食事をする場所を兼ねているので、ホールの担当者になった社員が、兼任で劇団担当をやるっていう感じなんです。
事務から、劇団のほうに異動と決まったときにはどんなお気持ちでしたか?
正直、最初は少し不安がありました。事務所での仕事も波に乗り始めてきた頃だったので、ああ、もう異動なんだなって。また新しいことを覚えなきゃいけないっていうのもありましたし、一回しか観たことのない劇団さんたちが、どういう人たちなのかも、その頃はわかりませんでした。
でも、僕より前に劇団担当をされていた何人かの社員の考えでもあるんですが、劇団さんがお客様を集めてくれるおかげで、僕たちはこうやって仕事をさせてもらえているんです。前提として、やっぱりうちの館内の施設だけで呼べるお客様って限られているんですよね。
お食事する所なら他にいくらでもあるし、建ったばかりの綺麗なお風呂屋さんも周りにたくさんあります。その中でうちの主力の催し物は、大衆演劇ですから。劇団担当は、歴代、そういう考えです。
歴代の劇団担当の方が、大衆演劇を大切にしてきたんですね。
来てくれる劇団さんは、僕たちにとって大事なお取引先です。その上で、一か月、同じ建物の中でお仕事をしているので、ある意味家族みたいなところもあります。
劇団担当は何人いるのでしょうか。
今は、僕を入れて二人です。やっぱり一人だと、休みの関係で、どうしても劇団担当がいない日が出てきてしまうので。コロナもあって、この数年は大幅な配置転換がなく、菊池さんという僕の上司にあたる方と、僕の二人で定着しています。
芝田さんの上司 劇団担当・菊池さんからのコメント
芝田さんはすごく真面目で、勉強家です。観劇しにセンターに来たお客様は、劇団さんに辿り着くまでに色々なスタッフと会うことになります。お客様とのコミュニケーションが得意な芝田さんがいると、そこが上手くいきますね。中には、芝田さんとお話するのを楽しみに、来られるお客様もいるんですよ!
劇団担当のお仕事
お忙しいのは、やはり月末~初日でしょうか。
そうですね。月末は今月の劇団さんと、次の月の劇団さんと、両方のことを考えなければならないので。もうすぐ千穐楽を迎える時期になると、今月の劇団さんと動かす物の打ち合わせをしつつ、次の劇団さんと、ここはどうなってますか?みたいな話を同時に進めます。
特に、次に来る劇団さんがうちで初公演だと、この建物の中での勝手を説明する必要があるので、どこに何を置いたらいいか。どこで一か月暮らしたらいいかっていうところから話がスタートします。
なので、次の劇団さんが初公演の月末っていうのはけっこう大変です。それから、荷物の搬入作業の手伝いもあります。
舞台道具とか、舞台セットの担当は別の方がおられるんでしょうか。
一応、それも僕と菊池さんで、できる範囲でやっています。
道具にも劇団担当が関わっておられるんですね!
お芝居でこれが使いたいって言われることは日常的にあるので、できる範囲で、館内を色々探します。
たとえば灰皿一つでも、明治の芝居なのか、昭和の芝居なのか、内容によって求められるものが違ってきます。だからちっちゃい灰皿とか、ガラスでできたゴツイ灰皿とか、色んなリクエストに応えられるように、館内の小道具置き場みたいなところは、物で溢れかえってます。
2階建てとか、開け閉めのできる舞台セットとか、他にも特殊な舞台道具の手配については、劇団さんにお任せしています。ここで僕たちが作ったり、修理したりできるものは限られていますが、手の届くところでお応えするようにしています。
それぞれの劇団さんと相談して決められるのですね。
劇団さんによっては、この芝居はこの道具っていうのを持ち歩いていて、全然僕たちがタッチすることがないときもあります。
でも、劇団さんからリクエストがあればなるべく応えてあげたいので、茶碗とか湯のみとかも、良いなと思うものがあれば、できるだけ小道具置き場に取っておくようにしています。取っておくと何かの芝居にぴったり合うときがあるんです。
小江戸座は舞台が広いので、立ち回りなどの場面でも空間に余裕がありますね。
うちの舞台はあまり高さがないんですが、広めではありますね。独特だと思うのは、ほとんど舞台真ん中の位置に大きな花道があることです。他の劇場さんでは、もうちょっと下手側に寄った位置にあるかなと思うんですけど。
また、長さもあって、役者さんが花道を使って客席の真ん中より後ろに行っても、まだ一段高く見える。それだけの長さっていうのは、なかなか他の無いところではないんじゃないでしょうか。
舞台面以外では、小江戸座の強みは何でしょう。
周囲の駅から、徒歩で来れる距離です。大衆演劇ファンでいらして下さる方は、車とか電車で来る方が多いので、駅から近いっていうのはうちの強みなのかなと思っています。
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