KANGEKI2022年1・2月号Vol.65

旅芝居ささえびと第2回川越湯遊ランド劇団担当・芝田卓朗さん「お客様を待つ仕事」のやりがい(2/2)

劇場:川越湯遊ランド・ホテル三光取材日:2021年12月4日
旅芝居ささえびと 第2回 川越湯遊ランド 劇団担当・芝田卓朗さん 「お客様を待つ仕事」のやりがい (2/2)

「出るからには集客に繋げないと」

 

芝田さんにお聞きしたかったのが、やはり舞台出演のことです。

芝田

この数年、ときどき劇団さん側から『出ませんか?』とお声かけいただくので、そのときに出ています。

劇団さんの影マイクで「いい女!」と言われていたのも納得です^^
後ろ姿もしっかり女形らしく作りこみます
 

昨年、女形舞踊を拝見しましたが、驚くほど本格的な女形でした。

芝田

それはですね…。前の劇団担当さんや、他のセンターの担当さんからも、劇団さんとのノリで『出ちゃいなよ』みたいな感じになって、舞台に出させてもらったっていう話を聞いていたので、そのうち僕にも回ってくるのかなーと思っていました。

でも、お客様はあくまでその月の劇団さんを観に来ているわけであって、素人の僕を観ても、本来は全然楽しくないと思うんです。舞踊ショーの時間って限られているので、僕の出演がなくても、香盤に入りきらない人が出てくるじゃないですか。個人舞踊がないとか、昼の部はあったけど夜は無しとか。

そのカツカツの香盤の中に素人が入るのは、誰かの出番を削って入るってことなんです。だったら、最初はノリで始まった話かもしれないですけど、集客に繋げないといけないのかなと思って。

 

お化粧道具も自分で買い揃えたのでしょうか。

芝田

買いました。当然最初は化粧の仕方も知らなかったので、初めて出たときとその次は、劇団の方に化粧をしてもらったんです。でも、わざわざ僕を観に来てくれたお客様もいたんですけど、顔も描いていただいて、言われた通りに舞台に出て、僕自身は何もしていないので、自分ではいまひとつ腑に落ちなかったんです。

化粧は自分でやったほうが責任感を持って関われるし、楽しいだろうなと。もし次があるんだったら自分でやろうと思って、化粧道具を揃えました。それまではネタで終わるみたいな所があったんですけど(笑)、わざわざ仕事とは別にそういうことをしてるんだから、自分でちゃんとやって、集客に繋げていくほうがやりがいがあるかなと。

2020年9月26日、劇団美松×劇団翔龍公演の舞踊ショー出演時。
松川小祐司座長が「芝田さんの化粧前は素人さんのレベルじゃない」とコメント
「集客に繋げる」の言葉通り、めでたく大入り~!配り物にも参加します
 

芝田さんが女形で出られると、会場がドッと沸くのが肌でわかります。

芝田

普段はやらないことだから、そう感じてもらえただけであって、何の芸もないので(笑)。特に女形をやりたいってわけじゃないんですけど、女形が良いって言ってくれる人も何人かいらしたのでそうしました。あと自分の顔つき的に、キリッとした立ちのお化粧よりは、女形が合ってるのかなと思います。

 

お芝居にも出られるのでしょうか。

芝田

今年の8月に劇団さんから誘われて、芝居にも出ました。素人の僕からすると多すぎるぐらいのセリフを頂いたので、一生懸命覚えて、見よう見まねで演じました。必死だったので、よくわからないまま終わってしまいました(笑)。

 

一度きりでなく、劇団さんから何回もお声が掛かるというのは、川越のお客様が芝田さんのことが好きなのを劇団さんもわかっているし、劇団さんも芝田さんのことを好きなんだと思います。

芝田

だといいんですけど(笑)。

劇団担当は、劇団と客席を繋ぐ存在。その両方からの、芝田さんへの愛が伝わる光景でした

プライベートでも観劇

 

旅行先でも、大衆演劇を観に行かれると聞きました。

芝田

劇団担当になってから舞台の楽しさがわかって、わりとすぐにプライベートでも行くようになりました。

 

特にお芝居が好きとか、舞踊が好きとか、ありますでしょうか。

芝田

全体的にですかね。強いて言うなら、ザ・大衆演劇みたいなお芝居のほうが好きかもしれないです。明治ものとか現代劇とかも、もちろん好きなんですけれど、昔からあるようなお芝居。普段自分たちが使わない言葉や、台詞に魅力を感じたので。

最近観たお芝居で言うと、『花街の母』とか『マリア観音』が印象に残っています。親子ものが好きかもしれないですね。

 

芝田さんが観に行かれると、劇団さんもすごく喜んで下さるのでは?

芝田

喜んで下さることが多いです。コロナ以前は旅行を兼ねて、関西でも九州でも東北でも、どこでも行ってました。昼は観劇して、夕方からは観光したり。

戻ってきてほしい食事会・送り出し

 

コロナ以降は、アクリル板の設置や消毒などの業務が増えたと思います。

芝田

消毒とかに関しては、手間は増えてますね。それも今は当たり前になってきてるので、そんなに苦だとは感じないです。

お客さんを待っている仕事をしてる人は、きっとみんなそうだと思うんですけど、暇で楽よりも、忙しくて大変だったねって終わるほうが嬉しいし、時間が経つのも早いです。やりがいがありますしね。やることが増えても、お客さんで溢れ返ってる客席を見る方が嬉しいです。

舞台と客席の飛沫を防ぐためのアクリル板の設置など、安心して来場してもらうための感染対策を実施中(2021年3月)
 

芝田さんは「お客さんを待つ仕事」という風にとらえているんですね。

芝田

こればっかりは、もうこちらは待つ身なので。今日はどれぐらい来てくれるんだろうって、舞台が開演してみないとわからないです。お客さんも色々ご都合があるわけじゃないですか。

毎日来て下さるお客様もいれば、色んな所に観劇に行きたい方もいるし、お仕事の合間を縫ってきてくれる方もいます。単純に、今日はセンターのビンゴ大会があります、いっぱい入りますってわけでもないです。

やっぱり、劇団さんが色々工夫してイベントを打ってくれる日は、たくさんのお客様が来て下さるんですけど。だから、こちらは待つしかないですね。

大きな大入り札が登場すると、小江戸座が一斉に沸きます。
「トリプル」や「フォース」となればなおさらです
(2021年4月)
 

感染状況が改善した2021年秋からは、コロナ前のお客様が戻って来られているのでしょうか。

芝田

そうですね、少しずつ。アルコールが提供できない時期はかなり厳しかったです。それでも、この施設の雰囲気が好きと言って下さる方や、お風呂に入って、大衆演劇を観て、食事してお酒を飲んでっていうのを楽しみにされてる方たちが、徐々に、徐々に、戻り始めてるかなっていう印象です。

 

お風呂からの観劇、そして食事。センターで過ごす一日はまさに天国!という感じです。

芝田

丸一日、朝から夜までここで過ごしていただいているお客様の中で、何十年っていう期間、毎日来ていただいている方もいるんです。そういう方たちには、僕のほうから『今日のイベント、どうでしたか?』と意見を聞いたり、アイディアを求めに行ったりします。

お客様の反応が良くて、なおかつ集客にも繋がったのであれば、このイベントは続けていったらいいかな、と思いますし。逆に反応がいま一つなら、他のことをしたほうがいいのかなと思って、上の人に伝えたりします。

毎日うちで過ごして下さってるお客様と、劇団さんを観に来てくれているお客様、両方が楽しめるイベントを考えるようにしています。そうじゃないと、まるきり劇団さんの集客だけに依存してしまうので。

少しでも、このセンターのイベントや魅力でお客様を呼べるようにしないと、うちに乗りたいって言ってくれてる劇団さんに申し訳ないかなと思うんです。

 

今後、芝田さんがやってみたい企画とかはありますでしょうか。

芝田

企画ですか?(長考して)。今はなかなか難しいと思うんですけど、新しくやってみたい企画っていうよりかは、コロナで無くなってしまったイベントが戻ってこないかなというのが一番ですね。

たとえばお客様と劇団さんの交流会、食事会みたいなことです。コロナ前、小江戸座では、ほとんど毎月食事会をやっていました。今思い返してみると、食事会の日は忙しかったですが、やりがいがあったなぁと。そういうイベントがいつか戻ってこないかなと思います。

2019年5月の食事会告知。
「ファンの集い」は、各月の劇団とお客さんの交流の場でした
 

食事会と言われて、とても懐かしい気持ちになりました。楽しいイベントでしたね。

芝田

食事会の日は、僕らスタッフは大忙しでした。夜の部が通常通り終わって、急いで片付けて、食事の準備をして、何時に乾杯して、どういう流れにするかっていうのを劇団さんと打ち合わせして。

夜の部が終わってからの遅い時間に働いてくれるアルバイトさんの手配とか、事前の準備も色々ありました。こういうこともできなくなって2年になります。そういうイベントが戻ってくる日があればいいなあと思いますね。

あとは、僕も個人的に観劇に行った時に、もちろん舞台を観る楽しみっていうのもあったんですけど、送り出しもとても好きでした。少し喋ったり、写真を撮らせてもらったり、握手してくれたり。お客様の中には、この部分を醍醐味と思っていた方もたくさんいると思うんですけど、今どれもできないじゃないですか。

コロナ以前、プライベート観劇の際の一枚。素敵な笑顔です^^
(芝田さん提供)
かつて、送り出しは大衆演劇ならではの醍醐味でした
(芝田さん提供)
芝田

そういったことが、いつか、また復活してくれないかなと思っています。

芝田卓朗しばた たくろうさん

取材後記

ゆったりとした雰囲気をまとった芝田さんは、どんなときも安心して声をかけられるスタッフさん。楽しそうにお仕事をされている様子が、以前から印象的でした。

伺ったお話には、劇団、お客さん、施設、そして舞台、全方位への「誠実」と「責任」がにじんでいました。次の舞台出演も楽しみにしています!

取材:お萩

劇場情報

川越湯遊ランド・ホテル三光

埼玉県川越市新富町1-9-1

川越湯遊ランド・ホテル三光公演予定