かんげき2023年7月号Vol.79

舞台裏の匠たち第10回神戸の床山チーム「中川かつら」(3/4)

取材日:2023年4月15日
舞台裏の匠たち 第10回 神戸の床山チーム「中川かつら」 (3/4)

鬘の現代事情

中川

本来は、鬘の襟の部分を作るとき、襟の形の羽二重に、毛が植えてあるものを付けるんですが、そこまでやっていたらすごく手間がかかるし、莫大な金額になってきます。今は襟の部分に、羽二重を付ける人はほとんどいません。その部分だけ、外国で作っています。

 

鬘も海外の生産地に頼っていると聞きます。

中川

鬘に使う人毛自体、全部、中国やインドから来ています。インドの男の人の、ターバンの下には、すごく長い髪があるんです。その方たちは、お寺にお祈りしたいことがあるとき、お金の代わりとして髪をお供えします。海外の専門業者が、それを買い取っています。

大きな樽の中で全部洗って、消毒して、すべてが同じ長さになるように整えます。日本はそれを輸入しています。

 

「中川かつら」では新規製作もやっておられます。レッドやブルーなどの鬘は、染めた状態の毛を買ってくるのでしょうか?それとも、ここで染めているのでしょうか?

中川

買える毛もあるんですけど、役者さんが望むような色はなかなか売っていないんですよ。なので、うちで染めています。弟子の(原田)みゆきちゃんは、染めの仕事を専門でやってくれています。

まず、役者さんに色のサンプルを渡して、『どれにしましょう』と相談するところから始まります。

黒~茶色の色サンプル
青系・赤系・紫系・黄系・緑系まで、「中川かつら」で作った色サンプル

どの色もきれいですね。

中川

『この色とこの色の間』とか要望いただくこともあります。

ここにない場合は、また新たに色を作られると。

中川

はい。みゆきちゃんが一番、悩む仕事です(笑)。ネイビーブルー(上段、右から二番目)は、成功と失敗を重ねる中で、偶然できた色です。

上品で、舞台映えしそうな色です!

中川

いま流行っているのは、紫系ですね。あとは、先端だけこの色にしてほしいという要望もよくあります。

こちらの白い鬘は?と千鶴子さんに伺ったところ、「黒や自然色の髪を、特殊な液につけて脱色したものです」

増えるアルティマ(人工毛)

 

ホームページに「アルティマ」と書いてありました。こちらは人工毛のことでしょうか。

中川

そうです。ナイロンの毛です。

ナイロンでできた「アルティマ」。
これでおよそ、ざんぎりの長さです
ホームページ掲載の新規製作の価格。
アルティマは女形でも20万円~と、人毛に比べ、リーズナブル
中川

触ってみてください。

 

触ると、たしかに細くてサラサラしていて、人毛とは違う感触です。でも見た目では、まったくわからないですね。

中川

わからないです。ただ、アルティマの難しいところは、コシがあまりないんです。こうしたらよくわかります。

左が人毛、右がアルティマ
 

アルティマはなかなか立たないのですね。

中川

網に植えたり、櫛を持っていったときにも、膨らみにくいです。もちろん、役者さんが使うときには、きちんと形が決まるように仕上げます。

ただ、制作段階では、人毛のようにはいかないですね。その代わり、アルティマは国産なので安いです。いまは、人毛の輸入が本当に高いですから。かつ、染めたとき、アルティマのほうがきれいに色が出ます。

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