花組むらさき箕面公演三代目南條のぼる座長インタビュー
座長10周年を越えて
「瞼の母」
忠太郎の旅のところから見てもらいたい
今日はラストショーの枠を使ってお芝居の後編を見せるという、面白い構成でしたね。
うちでやっている『母恋鴉』とは『瞼の母』の前編のことなんです。ただ『前編』とか書くとややこしいので、書き出しでは『母恋鴉』と出してます。このお芝居の時は、いつもこの構成でやってますね。
「瞼の母」は「柳橋水熊横丁」の場面から演じられることが多いですよね。
時間的にそうすることが多いですが、僕は前編も好きなので…忠太郎が半次のお母さんに手取りしてもらう場面があると、ああこうやって母を思っているんだなと伝わるし、『水熊』からだとさっぱりしすぎる気がするので。忠太郎が母を探しているところもやりたいんです。
舞踊ショーまでたっぷり股旅ものを堪能できる日でした。
僕自身も旅人のお芝居が好きですし、特にこういうホテルやセンターでの公演では、お客様が「ザ・大衆演劇」を見に来てる方が多いので、「瞼の母」のような定番を出すようにしています。劇場公演だったら、新しいものや変わったものをやるようにしますが。
ようやく自粛解除になって客席も賑やかでしたね。
はい、でも正味の話をすると自粛解除になってからの方が他に行くところも増えて厳しいです(笑)。そんな中でも、なんとか来てもらえてる方だと思うんですけど。
今が劇団に入るのにいい時期!?
今日はゲストさんを入れて出演者5人でのステージでしたが、5人でこれだけ見せるようにするのは大変だと思います。
ありがとうございます(笑)。今の人数で特にしんどいわけじゃないんですよ。もちろん人数が多いに越したことはないですけど、多ければ良いというのではなくて、お客様を満足させる公演をしようって個人個人が頑張って勉強する事が大事やと思ってます。
座員募集は…
もちろん募集はしてます!でもなかなか来てもらえないです(笑)。役者を辞める人はいても、これから役者をやろうという人、いないですよねえ。今こそ敷居が高くないんで、入り時だと思うんですけど。なかなかいません…どこにいるんでしょう??(笑)
ショーの構成の工夫としてはどんなことを
人数が少ない時は、基本僕がその分出るようにしますね。個人の舞踊に力を入れて、とにかくお客さんが飽きないようにしています。昼は扇子舞踊やったら夜は刀を持つとか、お面や傘とか。着物にしても、みんなとかぶらないように話し合って決めてます。
座長10年目。何とか続けられた
今年の9月に座長襲名10周年を迎えられました。振り返っていかがでしたか。
まずは何とか続いたなーということですね。コロナの状況で2年間、やってこれただけでも良かった。うちは幸い休みになった月がそんなになくて、人数少なくてもやらせてもらえて、ありがたいです。呼んいただけるところがあるのが、みんなの自信にも繋がっていると思います。
10年の中で一番大変だったのは
それはもう、今のこのコロナでしょう~。座長になって1年2年くらいの時は、なにも気にせず、やりたいことやって何も考えなかったと思います。お客さんが何が見たいかより自分がしたいことをがむしゃらにやってきた。でも、それじゃ通用しなくなってくるんですね。
4~5年目でだんだん考えるようになって、2年くらい壁にぶち当たりました。でもある時から、無理して合わないことをやるよりも、自分のカラーでやりたいことをやって、それを観たいと言ってくれるお客様を掴む方が正しいやり方かなって思うようになりました。
まずは自分たちが楽しくやる。そうじゃないとお客さんも楽しんでもらえないと思うんです。
記録に残るのは素敵なこと。お芝居も舞踊も動画オッケーに!
今日張り紙を見て驚いたのですが、お芝居も全て動画撮影を許可されているのですね!
うちはそもそも動画ダメですって一言も言った事がないんです。お芝居でもフラッシュを使わなければどんどん撮ってくれていいです。特に今は観たくても観られない方もおられますし。
記録に残るっていうのはとても素敵なことやと思うんです。自分でも残さない(残し切れない)ものを、周りの人が大事に撮ってくれてるのは、僕は嬉しいです。SNSアップもOKです。
お客様はありがたいと思います!撮影やSNSでのアップで、これはダメというのはありますか?
基本的にはフルバージョンと当日のアップはやめてねって言うくらいですね。ご自分で楽しむ分にはフルバージョンでも全然撮ってくれて構いません。
フルでもですか!?
全然オッケーです。なんぼでも撮ってください(太っ腹!)。
お芝居の動画も全部OKとは初めて聞いたかもしれません。ただコンテンツが流出して模倣されることを心配される方もありますよね
僕の場合、全然いいです。お芝居だってやる人で全然違うものになりますし、そのお芝居を知ってくれる人が増えてくれるのは嬉しいことです。芸は盗むものなんで、なんぼでも盗みましょうというのが僕の考えです。
真似されるのも嫌じゃない。好きやからこそ真似するわけやから、全然やってくださいって思ってます。真似してくれる人がいればの話ですけど(笑)。あまりそういう話は聞かないんで(笑)。
全員座長でいい
今日はありがとうございました。最後にこれからの夢や、やってみたいことがありましたらぜひお聞かせください。
今はとにかくなんとか続けていくこと、それだけですね。継続は力なりと言うようにまずは1日1日続けていくこと。
やってみたい演目などは…
そうですね、だいたいひと通りやらせてもらったんで、今は取り立てて挑戦したいことはないです。それよりも毎日の舞台に対する1人1人の意識改革ですね。
ここ最近、特にその必要性を思ったので、今からちょっとずつ良くなってくるんじゃないかな。美香座長、はじめ兄さん、舞台に出てまだ日の浅い彩姫も自分のカラーを見つけようと頑張ってます。
座員が主役になる日を作っておられるのもそういうことからなのですね
はい。みんなが座長と同じくらいになって、もう最終全員座長でいいやんって思っています(笑)。
取材メモ
股旅芝居の定番「瞼の母」を堪能できる一日。ラストショー枠で演じられた後編は、節劇を交えながら名シーンを一気に楽しめる趣向で、大衆演劇を初めて観る方にまずはここから!と、お勧めしたい内容でした。
「記録に残るのは素敵なこと」・・・舞台はその時その場所で観るのが一番で、それこそが全てですが、同時にどんな力強い舞台でもあっという間に過去のものになってしまうジレンマも覚えます。
今回ののぼる座長の言葉で、そのもどかしさが少し解放された気がしました。
この記事からもこの日の舞台の面白さを少しでも感じていただけたら幸いです!
劇団情報
花組むらさき
初代・市川人丸が創立し、南條す丶む(現組長)が受け継ぐ。 昭和62年(1987)年に、長男の二代目南條のぼるが座長を襲名、 「市川ひと丸劇団」から「劇団むらさき」となる。 平成19年(2007)年に二代目南條のぼる座長が急逝、 長男の獅子丸が三代目南條のぼるを襲名。 座長を中心に若い力で伝統を担う。