大衆演劇にまつわるあれこれの言葉。
お芝居の中に出てくる言葉から、大衆演劇独特の言葉まで、知っておくと大衆演劇がより楽しめます。このページでは「な」行・「は」行の用語について解説します。演目や題材については演目豆事典をご参照ください。
な
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中入りなかいり二幕以上の芝居の場合、幕間で入る休憩時間。
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長唄ながうた
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長さながさ大衆演劇の舞台となる江戸時代に使われていた長さの単位には以下のようなものがあります。反や坪は現在でも使われることが多いです。
- 寸(すん)
- 約3cm程度です。
- 尺(しゃく)
- 約30cm程度です。
- 丈(じょう)
- 約3m程度です。
- 間(けん)
- 6尺、つまり約1.8m程度です。歩(ほ)とも言います。
- 町(ちょう)
- 60間(歩)、つまり約109m程度です。
- 里(り)
- 36町、つまり約3927m、およそ4kmとして扱われます。江戸時代の街道においては一里ごとに一里塚(いちりづか)という塚が目印として設置されました。
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中日なかび全日程のうち、ちょうど真ん中となる日。一ヶ月公演が多い大衆演劇では、15日前後となることが多いです。
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中割幕なかわりまく二つの引幕で、舞台の中心から左右に開く幕のことです。
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奈落ならくせりなど、舞台に開けられた穴の昇降装置があるような床下のスペース。
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二重舞台にじゅうぶたい家屋や階段など、二つ以上の段差がついた舞台のことを指します。自然の中でやや高くなった場所を表現する場合には山台、家の場合には屋台が置かれます。
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二枚目にまいめ格好のいい役どころの人を指します。昔、姿がよく人気があった人は看板の二枚目に書かれたことからこう呼ばれます。コメディリリーフ的な役回りの人は三枚目となります。
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日本舞踊にほんぶよう
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ニン/仁/人にん役者さんの技量や人柄などを指す言葉です。「ニンに合わない」という表現をすると役柄がその役者さんに合わないという意味合いになります。
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人別帳にんべつちょう
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抜荷/抜け荷ぬけに幕府による許可を得ていない密貿易のことを指します。江戸時代には貿易はごく限られた国としか行われていない上に、幕府の管理下で行われており、違反した者には厳罰が下りました。しかしそれだけに上手くいった時のもうけは莫大な物となります。なので、時代物では密貿易をして大もうけを企む悪人がしばしば登場します。また藩などのレベルでも、定められた以外の外部との取引を行うと抜け荷の罪になります。
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年季ねんき
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野面のづら野原や田園風景などの舞台背景をさします。
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のぼり/幟のぼりいくつもの環をつけた細長い旗を、旗竿につけたもの。大衆演劇の劇場のまわりによく立てられており、役者さんや劇団の名前、顔写真などが入っています。
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乗り打ちのりうち新たな公演先の劇場に入ったその日に公演を行うこと。大衆演劇ではよく有ることではありますが、稽古の期間も無く疲れているのに公演を行うのはかなりたいへんなことです。
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乗り込みのりこみ新たな公演先の劇場に入ること。歌舞伎用語ではその際に行う挨拶も含まれ、大阪や博多では船乗り込みという行事が大々的に行われます。
は
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場ば芝居において、場面となるシーンを指します。たとえば「○○の家」とか「○○地蔵の前」等と言った使い方です。場を変える(場変わり)の際には暗転幕を降ろし、大急ぎで舞台転換を行います。景ともいいます。
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背景幕はいけいまく風景や家の中など、セットが描いてある幕です。
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博徒ばくと
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はけるはける芝居において、役者が舞台上から去ることです。
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箱馬はこうま木で作った箱で、サイズは6寸×1尺×1尺(180×30×30cm)または6寸×1尺×1尺7寸(180×30×51cm)です。高さの調節や、床面(平台)を作ったりするのに使います。
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長谷川伸はせがわ しん明治から昭和にかけて活躍した脚本家・小説家(1884年 – 1963年)。「瞼の母」「沓掛時次郎」「関の弥太っぺ」などの作品を産み出しました。大衆演劇でも数多くの作品が上演されており、「股旅物の創始者」「大衆演劇の神」という呼び方がされることもあります。また新人育成にも力を注ぎ、池波正太郎や平岩弓枝などがその弟子となっています。
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旗本はたもと
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八州廻りはっしゅうまわり
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花形はながた劇団において、特に人気のある役者さんのことを指します。多くの劇団では座長こそが花形ですが、大衆演劇劇団によっては、座長などのように「花形」という役職が存在するところもあります。
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花道はなみち舞台と同じ高さの通路で、舞台から客席の後部につながっています。役者さんが舞台にあがる時や、また去る時に使われたりします。ショーや舞台の見せ場では効果的に利用されます。
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はねるはねるその回の公演が終了すること。
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羽二重はぶたえ/はぶたい
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早替え/早替わりはやがえ/はやがわりきわめて早く衣装を着替える演出です。袖に引っ込んだと思ったらたちまち新たな着物で登場することもあれば、舞台上で一瞬のうちに別の衣装に替わる、などです。方法としては仮縫いしていた糸を切ったり…ですが、やはり実際に見ていただくのが一番です。
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バレばれ二幕構成以上の複数の幕で構成される芝居の、最後の幕のことです。
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藩はん大名を中心とした組織で、一万石以上の領地を治めていたもの。またその治める領地。江戸時代の日本には、百万石といわれる前田氏の加賀藩から、一万石の小藩まで300ぐらいの藩が配置されていました。ただし、藩という言い方が正式なものとなったのは明治時代になってからで、組織としては○○様家中や、場所としては○○殿領分等という言い方がされていました。
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幡随院長兵衛ばんずいいんちょうべえ町奴(まちやっこ)と呼ばれる江戸初期の侠客で、旗本奴と呼ばれる不良武士を中心としたグループと敵対していました。ある時、旗本奴の頭領であった水野十郎左衛門成之に、もめ事の手打ち式のために呼び出され、その屋敷内で殺害されました。後に「極付幡随長兵衛」等の芝居などで人気の題材となりました。元和8年(1622年) – 明暦3年(1657年)
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はんちょう/ハンチョウ/はんちょはんちょう/はんちょ大衆演劇の世界で、舞台上の役者さんに対して、客席からかけられるかけ声の意味で使われている言葉です。たとえばショーのタイミングで座長の名前を呼んだり、名台詞のタイミングではやし立てたりするようなものです。タイミングを外すと舞台が盛り下がってしまいますので、いきなり挑戦するのは慎みましょう。 歌舞伎では舞台向う正面奥の観客席、いわゆる「大向う」の観客席から「○○屋!」というかけ声がかかります。「大向う」の席は料金が安いですが、それだけに熱心な舞台好きが多く、いい掛け声は舞台を一層盛り上げました。大衆演劇で用いられる「ハンチョウ」の意味あいはこれに近いものですが、舞台袖からかけられることもあります。 歌舞伎の世界には、古くから「半畳(はんじょう)を入れる(打つ)」という言葉がありました。半畳は本来芝居小屋で座布団がわりにしく小さなゴザで、芝居に文句がある客がこれを舞台に投げ入れたことから来ています。このことから、「半畳を入れる」とは、批判的なヤジやからかいの言葉を飛ばすことを意味します。 「ハンチョウ」は「半畳」がなまった、もしくはもじられた言葉と考えられていますが、意味合いはかなり違う言葉となっています。いつから現在の意味で使われだしたかはよくわかっていませんが、比較的新しい言葉です。おそらく2000年代に入ってからのものではないかとされています。
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番頭ばんとう
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引幕ひきまく舞台にある、横に引いて開閉する幕。ただし一部の幕は揚幕とも呼ばれます。
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贔屓ひいき舞台の役者さんや劇団の熱心なファンで、時にはお花などの贈り物をするような方のことです。
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額割りひたいわり一方の役者さんが暴力をふるい、もう一方の役者さんの顔に傷を付ける演技。血のりなどが使われることもあります。
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火付盗賊改方ひつけとうぞくあらためかた江戸幕府がもうけた特別警察で、放火や押し込み強盗などの取り締まりを担当していました。略して火付盗賊改、火盗(かとう)ともいいます。火付け盗賊改のトップとしては「鬼平犯科帳」の主人公となった長谷川平蔵宣以が有名です。怪しい者であれば、たとえ武士相手でも捜査を行うことができる、武装して犯人捕縛にあたるなどの権限を持っていました。しかし強引な捜査を行うこともあり、多くの場合、庶民からの評判は良くありませんでした。
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平舞台ひらぶたい段差や二重舞台などが無い、平らな舞台のことです。
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ファミリー劇団ふぁみりーげきだん家族ぐるみで公演を行う劇団のことです。大衆演劇の劇団はほとんどが座長の家族を中心として構成されているため、ある意味ほとんどがファミリー劇団であるとも言えます。大衆演劇劇団が特にファミリー劇団だと呼ばれる場合には、劇団員がほとんど血縁者であるような劇団を指します。
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奉行所ぶぎょうしょ奉行所とは特定の任務を負った高級官僚で、奉行所とはその役所を指します。 しかし大衆演劇や時代劇で登場する奉行所は、町奉行所が最も多いです。町奉行は江戸や京都、大坂などの大都市に置かれ、その都市の行政や治安を守る任務を持っていました。ただし、寺社や大名家・旗本などに対する権限は持っていませんでした。 江戸町奉行は北町奉行と南町奉行の二人がおり、それぞれ月交代で任務にあたっていました。よく警視総監と東京都知事、東京地方裁判所長、東京駅長、東京地方検察庁検事正を合わせたと形容される重職で、さらに幕府の政治にも関与しており、高位の旗本が就任しました。庶民にとって最も身近な権力者であり、「大岡越前(大岡忠相)」や「遠山の金さん(遠山金四郎景元)」などの「名奉行もの」は今でも人気となっています。 奉行の下にあって、その仕事を補佐するのが与力(よりき)です。各奉行所に25人おり、御家人ながら馬に乗ることを許されるなどかなりの格式を持っていました。よく捕物の際に陣笠をかぶって馬に乗っている人物が与力です。粋な風体の者が多く、江戸の三男と呼ばれ、火消しの頭や力士とならんで江戸庶民憧れの存在でした。 与力の配下となる一般職員が同心(どうしん)です。町方同心(まちかたどうしん)は市中をまわり、治安や行政の最前線に立っていました。同心が犯罪捜査の補助のため、個人的に雇っていた存在が岡っ引きや目明かしと呼ばれます。与力と同心は世襲制で、代々同じ家が継ぎます。
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不義密通ふぎみっつう社会的な関係(君臣関係、奉公人と主人一家との関係、主人の許可を得ていない奉公人同士など)上、認められていない男女が密かに恋愛関係となることです。江戸時代では大変重い罪であり、場合によっては死罪もありえました。
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老役ふけやく年を取った人の役です。
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節劇ふしげき明治時代に起こった、浪花節(浪曲)にあわせて演技を行うものです。いわゆる「サビ」にあたる部分で盛り上げるその動きは、大衆演劇の芝居の原型となったともいわれます。このため節劇こそが大衆演劇のルーツだという方も多いです。
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舞台ぶたい大衆演劇の劇場における舞台は、劇場にもよりますが、一般的に客席ととても近いことが特徴です。
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扶持ふち武士が主君からもらう給料です。たいていの場合は米をもらいます。ただ、収入の表現で「30俵五人扶持」と言った場合には、30俵の米と、5人の人間が食べる米(一日玄米5合)という意味です。武士は体面や軍役のため、家臣や奉公人を抱える必要があったため、収入があっても生活は苦しかった事が多いのです。
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ぶっ返りぶっかえり本性を現すことを、分かりやすく表現する演出で、衣装の早替えが行われます。この場合は特に、上半身の着物がさっとはずれ、下半身にかかって衣装が替わるという形で行われます。
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ふんどしふんどし劇団幕のことです。
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舞踊ショーぶようしょー
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ペンライトぺんらいと蛍光色で光るライト。大衆演劇の場合には、ショーの際に振るのが正しい作法です。いろいろ派手な形のものを持ち込む方もいますので、他のお客様のペンライトを見てみるのも楽しみのひとつです。
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奉公人ほうこうにん
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ボカ/ボサぼか/ぼさ大道具の一つで、舞台上の草むらです。役者さんが身を隠したりするのにもつかえます。
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ホリゾントほりぞんと
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本水ほんみず舞台で使う、本物の水のことです。基本的に舞台では音や背景幕などで代用し、本物の水はあまり使いませんが、時には使うこともあります。単に役者さんが飲むものから、頭にかぶるもの、時には水芸や滝などの使用方法もあります。演目「瀧の白糸」では主人公が水芸を得意とする記述しであるため、本水を使うのシーンが見せ場の一つとなっています。
参考文献
- 「芝居通信別冊 大衆演劇座長名鑑2003」オフィス・ネコ(2003年)
- ぴあ伝統芸能入門シリーズ「大衆演劇お作法」ぴあ(2004年)
- 木丸みさき「私の舞台は舞台裏 大衆演劇裏方日記」メディアファクトリー(2014年)
- 宮本真希「大衆演劇における『お花』とは何か―見せることの意味―」(2013年)
- 鵜飼正樹「大衆演劇はグローバル化の時代をどう生き抜くか?」(2011年)
- 「江戸時代の1両は今のいくら?―昔のお金の現在価値― 」 日本銀行金融研究所貨幣博物館