木戸番のエッセイ・天職先は大衆演劇!第3回颯天蓮(正舞座)前編(2/4)
Ⅰ
生い立ち
紀州のお城の周辺に、赤ん坊の大きな産声が響いた。 昭和52年1月18日夕刻、和歌山市に住む、新田家の夫妻(浩夫と良子)に、はじめの子供が生まれた。 浩夫は、父親になる喜びで、いつも良子のお腹をみて、触って、耳をあてて、男の子だと勝手に判断、出産のしらせを受けて、病院に急いだ。
そして、病院に着いて、赤ん坊に面会。驚いたのは、信じていた男の子でなく、女の子であったことでもない。すやすや寝ている顔が、あまりにも自分に似ているからでもなく、ベッドに貼ってあるカードに書かれた、新生児の体重であった。 「3,650g」、大きい。
赤ん坊は、すくすく大きく育つように「育子」と名付けられた。 まさに、すくすく育った。小学校では、成績は中の中でも160㎝と目立つだけで、先生の目につく、結果、よくあてられる。育子は損だと思った。背が高いことは、損だと思った。
読者の中で、体格のいいお子さんをお持ちの親御さんにはおわかりいただけると思うが、クラスの席が一番後が定位置、ランドセルが可愛くない。子供料金に首をかしげられる。小学校も6年となると、女の先生を上から見ている。
小学校時代は、一般的に男の子より女の子の方が発達がいいので当然大きい。 しかし、小さくかわいらしい女の子がもてる。大きいともてない。
育子はそれを実感する。背が高いことは損だと思った。 でも、中学校になれば、男の子も大きくなる。期待しよう。育子は真剣に祈った。
期待通り、中学校となると1年生からモテた。本気でモテた。
察しのいい方は、お気づきでしょうがモテたといっても、男子からではない。
いろんな運動クラブが、身長の高い子(163㎝)を入れたがる。モテモテだった。バレーボール、ソフト、バスケット、等々。
元来、運動能力に不安のある育子であったが、誘われるがまま、体育館に足をむける。
青春の声が聞こえる。バスケットボールがこちらに転がってくる。拾おうと思って、うっかりボールの上にのってしまって見事に転倒、したたか、あごをうった。人だかりができる、血が出でいる、5針ぬった。女の一生キズや。
「どうしてくれる。」 体育館には行かないと決めた。
運動場では、サッカー部、野球部、ここでも青春の声、テニス部が試合をしている。 「1年生で~す。見学で~す。」というと、OK!の声。
隅でおとなしくみていると、こちらにすごーいスピードで、テニスボールが来る。 「あぶない」誰かの声! シュート回転で、ボールがくる、どんどん来る。目に当たっているではないか!
くるくる回って、地面に落ちた。漫画みたい。 人だかりができる、先生もいる。前にもあった、デジャブーじゃ!目の周りがクマになるではないか。女の一生キズや。
「どうしてくれる。」グランドにも入らないと決めた。