木戸番のエッセイ・天職先は大衆演劇!第8回澤宗小春~劇団澤宗~(4/5)
Ⅲ
劇団「澤宗」は、昭和25年に創立され、今年で37周年を迎える老舗の劇団である。 平成14(2002)年に「劇団澤宗」と改名し、澤宗宗二郎後見指導から澤宗城栄座長へと世代交代された。
平成27年から三代目・澤宗千丸若大将が正式に劇団に入団。また、2020年からは澤宗千丸が副座長となり、澤宗城栄座長、澤宗千惹座長、三代目・澤宗千丸副座長の3人が創りだす舞台に期待が高まっている。 なかでも、澤宗千惹座長の強烈な個性にひかれてファンになる人は後をたたない。
また、劇団「澤宗」の創設者の澤宗宗二郎は、紀伊国屋章太郎の弟であり、娘の澤宗千惹は澤村紀久二郎とは「いとこ」にあたる。千惹の息子の千丸と、千代丸劇団の座長沢村千代丸とは「またいとこ」である。
高校2年生になった小春は、「少女時代」のファンを卒業して、劇団「澤宗」にのめりこむことになる。
もともと、小春も劇団「澤宗」の一ファンであったが、「澤宗」を観ているうちにどんどん役者として舞台に立ちたいと思えてきた。女優としての自分を意識しはじめてきたのだ。
小春は高校を卒業すると、ついに入団を決意するになる。 しかし、母親の容子としては、反対である。 容子はいう。
「昔から(?)あの子をみているが、あの子の性格からして、人前でお芝居などできる方じゃない。仮に役者になってもその道で成功するのは、ひとにぎり。ほとんどが、やめていくのが、現実ですよね。」
しかし、小春は本気だった。言いだしたら、人の忠告などは聞かないタイプである。
みかねて、容子は劇団に相談に行くと……
千惹から、アドバイスを受ける。
「うちの劇団は高校生の場合、入団はできない。しかし、春休みや夏休みなどの長期休暇には、劇団と行動を共にできる」というであった。
姉の影響を受けたのであろうか、小春の4歳年下の妹も劇団に参加してきてきた。 容子の娘が二人も、裏方をして、たまに舞台に立っている。
容子は、大衆演劇の世界が、そんなに甘いものではないと思っているので、不安でいっぱいであった。やっぱり、親が役者のほうが、育ってきた環境も持っているセンスも違うと思っていた。 しがし、子供は子供で、違う見解をもって行動する。
小春にしてみれば、劇団は知らない世界で、どんなものか体験したかったのである。 そんなときに、長期休暇の体験入団の話がでて、早速参加、劇団の中で集団生活しているうちに、劇団の役者と家族同様になれた。
また、憧れの存在であった千惹座長は、予想通り決して甘くはなかった。 基本は“あいさつ”。それに、何についても、熱意をもって接すること。であった。 小春にしてみれば、初めての縦社会を実感したが、劇団は彼女には非常に居心地がいい場所であった。
では、小春を受け入れた劇団は小春についてどんな思いを持っていたのであろうか?
「実際、彼女はまじめに仕事にとりくし、信頼がおける。それに、稽古熱心でいいよ。でも、若いせいか、感情が表に出る。もっと役者にならねば……(うまいことをいう)」
また、こんな感想もあった。
「いい度胸をしているね。僕は、家が、役者一家だからこの仕事についたけど、普通の家に生まれたら、怖くて、劇団には入れないよ。本当にいい度胸をしていると思う」
確かに、良くも悪くも、劇団には近寄りがたいイメージはある。大概の人は大衆演劇は、観るものであって、やるものではないと思っているのでないか。
しかし、劇団自体は、いつでも懐ふかく新人をまっている。劇団員・役者になりたいと思ったらまずは、遠慮なく劇団員に、声をかけてみることだ。