劇団あやめ座長姫猿之助貴妃咲之阿国インタビュー
10年。このメンバーでやってこられて良かった
舞台で進化する新作狂言
10周年おめでとうございます!まずは今日のお芝居「イヨマンテの夜」についてお聞かせください。
これは今日のために書き下ろした脚本です。大衆演劇の古いお芝居から受け止めたものを、自分流に改造というかアレンジしました。
新しい部分を足すことで、古いお芝居が生まれ変わって、演じながら分かったことが多くて、自分でも楽しかったです。
例えばどんなところでしょう?
愛する人に対する気持ちを言うのに、大衆演劇だったら七五調で言うところを、普段の言葉に近い言葉を使うので『あ、これを言ってしまうと、この人は気を使うかもしれないな』と、よりリアルに考えたり、『大衆演劇のお芝居をする時もこの言い方が使えるぞ』とか発見があって、もっと違うお芝居に挑戦したくなりましたし、自信につながるものもありましたね。
うちのお芝居は、削ぎ落としてシンプルにしています。お客さんの中にお子さんや、今はコロナで来れませんが海外の人がいるので、そういう人たちにも伝わるようにです。大衆演劇の枠を越えたものを目指すのが、うちの劇団らしさだと思ってます。
昔のお芝居でも、進化させるべき部分と残す部分がありますよね。今日は『演って良かった』と思えたことが良かった。悲しいシーンで楽しいって言うのは変なんですけど(笑)、楽しかったです。
新しい演目をする時はいつも手探りで不安なんですが、今日はお客さんの反応も良かったですね。
手探りでやる時って、人間性が出るよね(笑)。今日は探り探りだったから若干、間が遅い時があって、でも今後のためだから仕方がないと思って演ってました。
そういう感覚は本番じゃないとわからないのでしょうか?
はい、稽古と本番では全く違います。
セリフも稽古と違うことを言ってますね。みんな稽古より足すし(笑)。
森や谷が見えてくるんです、お客さんの力で。それに乗っかって喋るじゃないですか。荒れ果てた土地が見えるような気がしたから、それを喋る。稽古ではなかった部分です。
大衆演劇の役者ならではのアドリブ能力ですね。
ますます12月の特別公演(ENNOSUKE’S GREATEST SHOW)が楽しみになりました。
そう、スケールは違うんですけど、今日はその第一歩の挑戦だったので…
稽古の時は気づかなかったことや、感触はつかめたね。
5人+助っ人1名で
全てこなす
今日は助っ人さんが1名入っただけで、表も裏方も全て5人のメンバーでだけでやってるんですよね。
そうです。
そのことに、まず驚きました。
そう思っていただけるとありがたいですね。裏では、熊の後ろ足の衣装のまま、走り回ってましたからねえ(笑)
大衆演劇ならではですよね。表で涙流して、裏に回ったらさっと切り替えて裏方やって…
時代劇離れの今、中剃りの鬘はかっこいいのか?
お芝居のストーリーは「鯉名の銀平」を彷彿とさせられました。
そのエッセンスも入れてます。古いお芝居をね、今の若い人に伝えなきゃいけない。僕らは時代劇の鬘をかぶるでしょう。それを見て笑う子がいるんですよね。
確かに、今テレビで時代劇はやってなくて、コントの印象が強かったりしますから…
そうなんですよ。僕だって小さい頃、親の鬘を見て、なんでこんなのかぶってるんだろって思いましたもん(笑)。これがかっこいいって思うようになったのは、お客さまのかけ声でしたね。客席の反応を見て「あ、そうか、この中剃りの頭ってかっこいいんだ」って。でも、基本廃れていくものではとも思います。
20年後もかぶってるのかな。
化粧もどんどん変わってきてますよね。
だからね、古き良きものを大切にしながらも、まずは新しい人に受け入れてもらえるようなものを考えて、見せたいんです。
今日のお芝居のようなファンタジックな題材であれば、受け入れてもらいやすいでしょうか。
そうですね。彼らの美的感覚や価値観に近いもので、引き込めたら。
大衆演劇の面白さを知ってもらうために
まずは生の演劇の良さを知ってもらいたいです。今であれば配信もありますよね。自分自身はあまりハマらないんですが。
でもそれも第一歩なんだよー。見てもらうためのね。
今はYouTubeで自分でテレビ局を作れますし、すごい時代ですよね。こどもたちに聞いたらテレビは見ないって。あの子たちが20歳になったら、どうなるんでしょう。
まずは配信で食いついてもらって、免疫つけてもらって、徐々に時代劇を見てくれるようにしたいね。僕らは演劇の中でも、下火に見られる旅役者、ドサ周りの役者って紹介されますが…
その良さを知ってもらいたいですよね。
大衆演劇を国から認めてもらえるような、エンタメにしていきたいんですよ。
大衆演劇はエンタメとしてすごく面白いことをやっているのに、宣伝能力が著しく低いですよね。例えばダンサーの方がYouTubeをやっていて面白いんですけど、大衆演劇の人がやったらもっと面白いだろうなって思うものもあります。
和物とかは特にそうですね。動きが板についていて、着こなしも自然で。
『鬼滅の刃』のおかげで和物が認識されたのでは?
そう。みんな『鬼滅』の格好でやってるけど、大衆演劇の役者さんがやる方が絶対面白いしクオリティが高いと思う(笑)。
あとはビジュアルだよね。
ビジュアル?
この濃い化粧が一瞬引きますよね。
僕自身、外を歩いて、自分のポスター見たら二度見しますもん(笑)。アングラに近いと思われているんじゃないかなって思います。
目張り入れすぎだから…
でも目張り入れないとえらいことになるよ(笑)
全員素顔で現代劇とかは?
素顔はまずいですね(笑)メイクは要ります!(笑)
でも現代劇は挑戦したいよね。
最近戦争ものとかも演っているですけど、挑戦したいです。
新作も作っていらっしゃいますし、お芝居の数は増えてますよね。
100本以上、いや、もっとあります。ただ舞台セットが必要なものが多いので、なかなか出来ませんが。
『Byond the KABUKI』と自分たちで呼んでいるものです。
10年を振り返って
10年の間で心に残っていることは、どんなことでしょうか。
何よりも一人じゃなくて良かったなと。劇団花車にいた時は自分さえ出来ていればいいという、若いゆえの自信があったんです。でもそうじゃないって気づけたのがこの10年でした。
辛い時、悲しい時を思い出したら、いつも誰かがそばにいてくれた。だから耐えられたと思います。
今いるメンバー全員、旗揚げメンバーです。
志半ばで去った人もいましたけど、そういう人たちの力添えもあって、もちろんお客さまにもたくさん力をいただきました。
うちのお客さまは団結力が強く、熱いんです。
本当に僕は人に恵まれてます。一言で言えば、親元を離れて良かったと。それが、お客さまやうちの若い子たちが一番心配していることだと思うんです。
父のところにいれば安泰で、僕らも崇められてました。そこからどん底に落ちて這い上がって、今ようやく一歩踏み出せた。みんながいてくれて本当に良かった。
こんな話はお客さまに聞かせることじゃないし、座員たちにも面と向かって言えないですけど、これを読んで『座長こう思ってるんだ』って知ってくれたら、僕は幸せです(笑)。
10年前と今。メンバーの変化を座長が分析!
座長から見た皆さんの変化について教えていただけますか。
では1人目、千鳥。我慢強くなりました。昔は気が短くて喧嘩早くて、僕、『部族』って呼んでました(笑)。今は『仏』です。3年前にお母さんが亡くなって、死に対しての意識が変わった。『今この時期はもうないんだよ。だから力合わせよう』って言ってくれます。その心が出来たことが誇らしいです。
続いて、ひよこ。優しすぎるくらい優しくて、面倒見がいい子です。人の仕事を手伝って自分の用意を忘れてしまうくらい。この間も自分の祭りなのに人の着付けを手伝って遅れてました(笑)。でも芯が強い子です。10年で輪をかけて強くなった。強い気持ちで劇団にいてくれているのがわかります。
次は初音きらら。この子も変わりました。明るくなった(笑)。体操の道に行こうとして途中で諦めたことが、トラウマになっていました。厳しいことを言うと、昔は黙ってしまいましたが、今は『自分にはこれしかないんです』とくらいついて来るように。ひ弱だった子がたくましくなったと思います。
そして咲之阿国。一番変わりましたね。昔は叱られたらシクシク泣いてたんですよ。で、ひよこさんに慰めてもらって、千鳥さんに「泣くな!」って言われてね(笑)。
乗り込みの時に虫が出て『虫が~ッ!』って言ったら、千鳥さんに『いいから早く運べ!』(笑)。今は逆です。『誰の姿見てそうなったん』って(笑)。
貴妃になってからは、座長の片腕として何かと矢面に立つことも多くて。それでも全部受けてくれてます。
以前は自分のことしか考えなかったんですが、まず劇団全体を考えるようになりました。自分が出来ないと教えることもできないですから、立場の重さを感じます。自分に自信を持たなきゃいけなかったり、人に認められるようにならなきゃいけなかったり。でも楽しくなりました。
楽しい?
貴妃になって劇団のことが生きがいになりました。自分たちは間違ってない、面白いことをやってるって。自分の劇団が一番!とはっきりそう思えるようになりましたね。
座長ご自身は…
僕も変わりました。昔はプライドや自分のやりたいことが先にあって、人を苦しめました。10年前、まず人を育てることから始めなかったのかと、振り返って後悔しています。今は人を育てる楽しさを知りました。だからやりたいことをやれる。やって来れてよかったと思っています。
こだわりのオリジナル衣装が出来るまで!
今日はぜひ衣装のことをお伺いしたいと思ってまして、まず衣装が出来るまでをざっくりと教えていただけますか
まずはデザイン画を僕が描きます。やりたい演目がありすぎるくらいあって(笑)、5000枚は描いてあると思います。そしてまず生地選びに、生地屋さんを周ります。
大阪でしたら船場センタービルなどでしょうか
そこも行きますし、全部行きます。
ストックがあるんですよ。休みの日には生地を買い付けに行ってますね。
そうしてデザイン画と生地をお針子さんに渡して縫製してもらって、僕が着心地をチェックします。動けるかどうか、小さすぎても大きすぎてもいけないので、確認しながら縫っていただいています。
なるほど、舞台衣装は見た目もですが、動けるかどうかが大事なのですね。
完成するまで自分でも縫っている気分になりますね。出来たら感無量で、着た段階で涙が出そうになることもあります(笑)。感動からのスタートですね。楽しいですよ。
最近のお気に入りは
うーん、どれだろう?『greatest show』の衣装、今日のラスト舞踊の衣装も好きですね。
あとはお芝居の最後に着ていたのも。アイヌ民族の方々の文様を見て研究しました。
作る前からそれを着た自分を想像して感動するんです。自分のこと大好きみたいで寒いんですけど(笑)。夜、化粧電気1つで描きながら、この敵役はこんなんがいいんじゃない?って、想像するのが楽しいですね。
「グレイテストショー」を常打ちにしたい
今日はお疲れのところありがとうございました!最後に、これからの夢や構想についてお聞かせください。
振り返れば楽しい苦労やったと思います。ずっとこのメンバーでやっていきたい。1人欠けてもダメなような気がします。
夢は、劇場を建てて良い狂言をお見せしたい。『グレイテスト…』と、わざわざ言うのではなく常打ちにしたいんです。劇場があれば見せられる。スタッフを集めて歌舞伎に近づけるような舞台をしたいというのが、今の新たな夢です。
取材メモ
夜の部終演後に伺って、長いインタビューになってしまいました。お二人のお話が面白く、つい欲張ってアップさせてもらいました。
「こどもや外国の人にも分かるお芝居」「新しい人に知ってもらうために現代の美的感覚を近づける」といった話に、なるほど!でした。
確かに今のこどもから見たら”チョンマゲ”は変ですよね^^;でもこれをかっこいいと思えるようになれば、しめたもの。大衆演劇の魅惑の世界の住人に…笑
メンバーの10年前のエピソードも楽しく、人は10年でこれほど変われるのだと知らされます。
目指すのは誰も見たことのない世界。ますますエネルギッシュな劇団あやめから目が離せません!
ENNOSUKE’S GREATEST SHOW
2021年12月29日
世界館(大阪市港区)
12時開場
13時開演
料金 10,000円
詳細は劇団までお問い合わせください
劇団情報
劇団あやめ
平成23年(2011)旗揚げ。 座長の姫猿之助は劇団花車の姫京之助ゴッドの次男。 劇団花車時代より、自らデザインした斬新な衣装を次々と発表するなど異色の存在として注目を集め、2008年にはパリ・オペラ座での公演を成功させるなど、大衆演劇の枠を超えて活躍。 旗揚げ後は座長のもとに集まった座員と共に研鑽を積み、独自の舞台を繰り広げ、客を魅了する。
劇団あやめ公演予定
- 2025年1月新開地劇場(兵庫県)
【劇団夢道公演】ゲスト(1/1~23):劇団あやめ