木戸番のエッセイ・天職先は大衆演劇!第8回澤宗小春~劇団澤宗~
大衆演劇の劇団の多くは座長とその家族で構成されている。
役者の家系に生まれた、いわゆる幕内の人間が過半数を占める中、一般家庭から役者になった人もいる。
何がきっかけでこの世界と出会い、日々過ごしているのだろうか?
劇場オープンから5年、木戸番兼劇団のお世話係を務めてきた著者が綴る実録エッセイ。 第8回は劇団澤宗、澤宗小春編です!
はじめに
全く個人的な話になるが。私の勤務している『あがりゃんせ』には、たくさんの従業員がいる。もちろん勤勉な人達ではあるが、趣味趣向は様々である。
特に、プロ野球のファンも多く、一部熱狂的な人もいる。そんな中、私自身は巨人ファンである。左の高橋一三、森のバッテリーからのファンである。
しかし、関西では、阪神タイガースのファンが圧倒的に多く、大衆演劇の座長も巨人ファンでも、広島ファンでも、野球の話は口に出しにくい雰囲気である。
そんな中、人気の阪神タイガースに素晴らしいルーキーが入った。近畿大学からのスガッカー、佐藤輝明である。彼は素晴らしい。巨人ファンの私でもその実力は評価しなければならない。巨人に欲しかった、とつくづく思う。
世界に目を転じてみると、大リーグの大谷翔平は、巨人ファンでも阪神ファンでも、その実力を認める二刀流である。
私自身は、劇場の木戸番であるが、ジャズドラムも楽しんでいる。週末にはドラマーになり,二刀流(?)になるのである。
このコロナ禍の前は、ジャズバーで仲間とセッションをしていたが、デユークエリントンの「サテンドール」という曲のスコアを見た時に、ピアノのパートに「pf」と書いてある。今の時代、ネットで調べれば、大概の疑問が消えるが、なんとなく気になる。そんな時、やはり近くの人に聞くことが多い。
わたしが通っていた高校には音楽科があり、そこの一つ上の先輩が今大衆演劇のファンで、水曜日と土曜日には「あがりゃんせ劇場」にやってくるので、その疑問をぶつけた。
「おはようございます。ピアノは、なぜpfとなっているのですか?」
その質問に対して、先輩は迷うことなく答えた。
「実は『ピアノ』は、昔、ピアノができた時には、ピアノフォルテといったのよ。いまは、簡単にピアノと言っているけど、ほんとうはピアノフォルテなのよ。だから『pf』」
「なるほど。よくわかりました。ありがとう」
「小野さん、さっきも『おはようございます』と言ったけど。もう夕方なのに『おはようございます』は、おかしいな。なぜ?」
今度は、逆に疑問を受けた。
「はい。pfにお答えねがったので、少々ご説明をしましょう。確かにこの業界では、いつでも、あいさつとして『おはようございます』と言いますね。この言い方には、所説ありますが、私が知っているひとつをご紹介しましょう」
「私のような木戸番が、役者をお迎えする時は、朝の場合は、新人が多いので『おはようございます』と言います。昼になってくると、ベテランがきますがやはり『おはようございます』と言います。午後からは、大御所が来ますが、その時は『おはやいおつきでございます』と言います。相手は、今、起きたところだから『おはようございます』と言います。
次の大御所がきても『おはやいおつきでございます』と言います。相手は、起きたところだから『おはようございます』と言います。
その繰り返しで、最後はこちらも『おはようございます』となりました。それが業界の『おはようございます』の語源だと言われています」
先輩も、納得してくれました。
今回はそんな業界に憧れて、大衆演劇の世界に飛び込んだ、若い女優の話です。
特に、これから大衆演劇の世界に入りたい若者や、その親に読んでいただきたいと思います。