木戸番のエッセイ・天職先は大衆演劇!第10回寿かなた~劇団寿~前編
大衆演劇の劇団の多くは座長とその家族で構成されている。 役者の家系に生まれた、いわゆる幕内の人間が過半数を占める中、一般家庭から役者になった人もいる。 何がきっかけでこの世界と出会い、日々過ごしているのだろうか? 劇場オープンから5年、木戸番兼劇団のお世話係を務めてきた著者が綴る実録エッセイ。 第10回は劇団寿の寿かなた編の前編です!
はじめに
あがりゃんせ劇場がある滋賀県大津市も、令和3年10月1日には、緊急事態宣言が解除になり、劇場にも以前のような人の波が戻ってきた。が…。
なにも「コロナ」がおさまったわけではない。 劇場では引き続き換気には十分に気を付けているし、高性能の空気清浄機も常時作動している。 また、劇場内も密を避ける座席数を保っている。舞台で演技している役者達にも、観劇にお越しのお客様にもすこぶる評判の悪い、舞台の前にかけているビニール製の幕も取ることができない。
このビニール製の幕は、役者の飛沫対策であるが、そのおかげで、役者の顔が、細かい演技が鮮明には見えない。ライトの光が当たるとひかって、踊りも見えない。
しかしながら悪い評判ばかりではない。
あがりゃんせ劇場は、密もないし、役者の飛沫対策もしている、換気も万全で場内の空気のいいし、とにかく非常に安全である。
と、言ってくれるのは、お客さんの中におられる医療従事者のOBやOGである。 不思議と、あがりゃんせ劇場には元医療従事者が多い。いわゆる元・看護師さんである。
ある看護師のOBは、定年退職した後は、新たな仕事にはつかずに家にいて、地域貢献活動に参加したり、普段の昼には畑仕事に出てナスやきゅうりなどの作物を育てる。
そして、午後3時には家を出て、ほぼ毎日あがりゃんせに行くのが習慣になっている。 あがりゃんせにくると、風呂に入り、広い施設内を4000歩のウオーキング。 そして、舞踊ショーをみる。
彼は、非常に大衆演劇を愛しているので、乗っている劇団や観劇に来ている大衆演劇のファンにも、健康でいてほしいと願っている。
それゆえ、コロナに対して間違った認識をもって行動している人を見つけると、お客であろうと役者であろうと真剣に注意する。 そんな元医療従事者が、あがりゃんせ劇場のファンであるから、私も色んな意見を聞いて良好な環境をつくる。それが、いまの状況である。
また、あがりゃんせでは、お客さんの急な発病や湯あたりなど、気分が悪くなったときも、元医療従事者が活躍してくれる。救急車が来るまでの彼らの行動は頼もしいかぎりである。
そんな人物が3人や4人でない。元医療従事者があがりゃんせ劇場のファンになぜ多いのかは分からないが、どうも劇場内の衛生環境がいいところに、彼らは集まってくるようだ。
確かに、あがりゃんせ劇場には、大衆演劇を観るお客様に元医療従事者が多いとは言ってきたが、今月、もう一人、新たな元医療従事者に出会った。 その人物は、劇場の中でも客席でもなく、なんと舞台の上にいた。 大衆演劇を演じる女優であった。
さて、このシリーズでは一般家庭から大衆演劇の役者になった人物を紹介しているが、今回紹介する女優は『劇団寿(ことぶき)』の「寿かなた」である。
さて、なぜ元医療従事者、すなわち看護師さんが大衆演劇の女優になったのか、その顛末をご紹介しよう。
乞うご期待!