かんげき2023年9月号Vol.81

木戸番のエッセイ・天職先は大衆演劇!第26回愛染菊也~劇団紫吹~前編(2/3)

劇場:スパリゾート雄琴 あがりゃんせ
木戸番のエッセイ・天職先は大衆演劇! 第26回 愛染菊也 ~劇団紫吹~ 前編(2/3)

さて先日、あがりゃんせ劇場前でこんなことがあった。

私の職場である「受付案内所」では、あがりゃんせ劇場に入るお客様の指名とIDキーの番号をひかえる。 そうすると、劇場に入っているお客さんの数がわかる。つまり、大入りまでの人数がわかる。

大入りになるまでの人数が確定して、残りがおよそ5名以下になると、私も動きお客さんを勧誘する。

その日も私がお客さんを勧誘していると、劇団の女将さんが子役の役者に、私の手助けをするように言った。 その利発そうな子役は、恥かしそうに小声でいう。

「いらっしゃいませ。いらっしゃいませ。あがりゃんせ劇場にどうぞ、どうぞ!」

2,3回ほど続けて、その子役は私に、お客さんにどう声をかけたらいいのかを尋ねてきた。

私は、子役にいった。 「いらっしゃいませ。いらっしゃいませ。ただいまから、あがりゃんせ劇場では、舞踊ショーが始まります。入場は、無料になっています。 また、場内への出入りは自由です。どうぞ、お入りください」

私の言うことを聞いていた子役は、2,3回、口の中でぼそぼそ練習をしていたが、本番とばかりに、私の言ったコメントを見事に繰り返した。

その子役には、私のいったコメントは、セリフとしてインプットされたみたいだ。

その子役は、そのセリフをお客様相手に連呼した。 可愛い容姿と、一生懸命さに、お客様が集まり、「大入り」が連発した。 そのセリフをおぼえる集中力ととっさの暗記力には、おそれいった。 そこで、私は、ちがうフレーズを子役に披露した。 それは…

「もうすぐ、3時になります。3時になりますと、あがりゃんせ劇場では、劇団が渾身の力をこめた舞踊ショーを用意して、皆様方のおこしをお待ちしています。舞踊ショーは、無料ですのでご遠慮なくおはいりください。また、レストランでは、3時の軽食も用意しております。どうぞ、おこしくださいませ。」

10歳にも満たないであろう子役には、難しいセリフ回しではあっただろうが、彼女は、なにげなく言ってのけた。 直後、私がおどろいたのは、子役がいった一言であった。

「ねえ~『渾身』ってなに?」

その子役は、少々の言葉の意味の不明瞭さは無視して、覚えているのである。

そうやって、大衆演劇の芝居のむかしながらのセリフも覚えているのであろう。 どちらにしても、たいしたものである。

スパリゾート雄琴あがりゃんせ