旅芝居ささえびと第6回金沢おぐら座社長鷹箸直樹さん「劇場は、もっと色々な人のもので良いと思うんです」
今年、15周年を迎えた大衆演劇場「金沢おぐら座」は、金沢駅からIRいしかわ鉄道で7分。
「森本」駅を降りて目の前です。
入り口で目に飛び込んでくる、社長の誕生祝いのタペストリー。
取材担当が劇場を探検してみると、社長作の愉快な掲示物があちこちにありました。たとえば…。
窓の外側のプレート。「勇気を出して 君ならできる!」励ましに思わずニッコリ。
劇場内Wi-fiがあります。まさかの精神論。(実際はサクサク通じました)
お手洗いの個室。うまい!
「ちょっとしたところで、フッと笑いが生まれたほうが楽しいですから(笑)」と語る、鷹箸直樹社長。
おぐら座の陽気な雰囲気に惹かれ、「劇場のファンになった」と、遠方から来るお客さんもいます。舞踊ショーのZOOM配信、商店街一座、自慢のたこ焼きなど、ユニークな注目ポイントがたくさん。金沢の地で大衆演劇を根付かせてきた、鷹箸さんの15年を伺いました。
ドラマー時代
流れ流れて金沢にいるんですが(笑)、出身は群馬です。新潟大学に行ったんですけど、1年生を 4回やって中退したんですよ。一回も進級できず。
勉強より夢中になることがあったのでしょうか?
剣道とバンド活動です。知り合いの縁で金沢に来たあと、求人雑誌で見つけた、ライブバーみたいなお店のドラムの仕事を8年ぐらいやりました。お酒を作ったり、接客したりしつつ、一日3回の生演奏をするんです。そこで、ステージの魅力にすごく惹かれていきました。
魅力とは?
生演奏が終わった後って、お客さんみんなと仲良くなるじゃないですか。みんなで一つの舞台を観て、一体になる。自分でこういうのを発信したいなと思っていたときに、親戚にあたる舞踊家さんから、『大衆演劇をやりたいから手伝ってほしい』と声をかけられて。場所は、ここの隣町でした。
それが大衆演劇との出会いだったのですね。
はい。それまで大衆演劇のことは全然知らなかったんですけど、初めて観たらすごく面白かった。自分がやってきたステージと、同じものを感じたんですよ。舞台も客席もみんなが、ワーッとなれる感じ。客席でおばあちゃんが高校生にお菓子あげたりしているのを見て、ああ、良い空気やなって思いました。
その場所で一年やって、僕は手伝いで、たこ焼きを焼いたりしていました。でも結局、採算が合わないからやめるっていう話になったとき、このタイミングだなと思って、『ぜひ引き継がせてください』と言ったんです。
初めは、目の前の課題をクリアすることだけ
当時、この森本商店街も寂れていて、空き店舗対策として、駅前の施設に劇場を入れられることになりました。昔はここ、スーパーマーケットだったんですよ。
どうりで広いと思いました!
劇団さんの楽屋に当たる場所は、スーパーのバックヤードでした。冷蔵庫がそのまま残っていたので、冷蔵庫のドアを取って、そこを部屋にして、化粧してもらいました。ロビーにあたる場所は、売場でしたね。
僕は素人だし、劇場も何もない状態でオープンしたので、劇団さんには毎月怒られていました。初めは劇場として、引け目しかなかったですね。必要だと言われた舞台道具を、一つ一つ、作りました。本当に意地で、ひたすら目の前の課題をクリアすることばっかり考えていました。
一通りのものが揃うのに、どのくらいかかったのでしょう。
やっぱり3年はかかりましたね。ひと息ついたときに、町にやっと目が向きました。森本の町と大衆演劇、両方win-winになるには?と、考えるようになりました。
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