舞台裏の匠たち第5回床山・丸床さん「床山は、人の記憶の中にしか残らない仕事だから」
鬘を見るのが大好き!という大衆演劇ファンの方は多いのではないでしょうか。その鬘を結い直し、格好良くメンテするのが床山(とこやま)さんの仕事です。
ツイッターのアカウント名・丸床(まるとこ)さん(@marutoko_ch)は、床山歴25年以上のベテラン。そのツイートは、技術的なことを素人にもわかりやすく、かつ軽快な語り口で教えてくれます。
丸床さんに浅草にお越しいただき、KANGEKI取材班のインタビューに応じていただきました。
立役も女形も両方やる、レアな床山
ずっと、関東近辺で活動されているのでしょうか。
そうです、今は川崎。生まれは横浜です。
「丸床」とは、どういう意味なのでしょう?
深い意味があるわけじゃないんだけど、床山として良い仕事しますよっていう意味で、『丸』にしたんです。普段はあんまり、顔出しはしてないです。俺たちの仕事ってあくまで役者さんのためにするものだから、自分が表に出ちゃダメなんですよ。
たとえば自分がお洒落してパーティに行ったりしたときに、きれいですねって言われてるのに、その横で『この服、俺が作ったんだよ』とか言ってる奴がいたら嫌じゃないですか(笑)。
ツイッターを拝見していると、結い直しの依頼でも、鬘の状態を見て修理までされたり、手の込んだお仕事をされているのがわかります。
修理も結い込みもできるし、立役も女形もやります。洋髪も、セット屋さんみたいな特殊なのはできないけど、ある程度はやれる。床山として困ることっていうのはあまりないかな?
立役と女形、両方の鬘を扱える床山はレアということなんですね。
両方やるには、相当な鍛錬をしないと難しいんです。というのは、立役の仕事をメインでやってきた床山さんが女形の鬘をやると、女形なのに形が固いんです。
逆に、女形をメインでやってる人が立役をやると、緩くてピシッてならない。ぽよん、ていう感じに可愛くなっちゃうの。
その違いって、素人目にもわかりますか?
比べて見たら、わかると思いますよ。だけど立役はやっぱり格好良くなきゃいけないし、女形は可愛く、かつ色気がないといけない。
俺も最初は、立役から入ったから、やっぱり女形を結ってみると、固くて、色っぽくなくて、『これ接着剤で固めたの?』みたいなバキバキした女形になっちゃいました。それを直すのに、3年ぐらいは苦労したかな。
自分の手に乗っかっている技術を変えるのには、時間がかかるんですね。
変えるんじゃなくて、二つ、技術を持つっていう感じ。頭の中を切り替えて、立役をやるとき、女形をやるときっていうのを二面性で使わないといけないんです。
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