舞台裏の匠たち第10回神戸の床山チーム「中川かつら」
ホームページを見るだけで、古典から創作まで、幅広さにワクワクさせられます。鬘のメンテナンスと、新規製作の両方を行う「中川かつら」。
床山・中川憲之さんが、約17年の修行を経て、46歳で創業しました。奥様の千鶴子さんは、尼崎市の劇場「千成座」オーナーも務めています。神戸市灘区のマンションの一室にある、「中川かつら」へ伺いました。 鬘ができる工程、床山の経歴、カラフルな鬘を生み出す苦労、人毛と人工毛の違いなど、鬘のお話をた~っぷり聞きました!
鬘ができるまで
鬘ができる工程を、簡単に教えていただくことはできますか。
はじめに、台金(だいがね)があります。
台金をガスコンロの上に乗せて、焼きます。刀を作るのに『焼きを入れる』というのがありますでしょ?それと同じで、焼いて固くします。また、本来は漆を塗ります。台金の形が整ったら、網に毛を植えたものを、台金に沿うようにして貼っていきます。
網は特別な網なのでしょうか。
普通のチュールに、セルロイドを溶かしたものを何回も塗って、固くしたものです。
毛を網に植え終わったら、枠から外して切って、台金に貼ります。それから蓑毛(みのげ)という毛の束を植えていきます。
「中川かつら」では、そういったベースの部分から作業されているのですか?
鬘の修理を頼まれたときは、僕らも台金を叩いたり、毛を植える作業もします。でも、この部分は、長年、一緒にやってきた仲間の専門業者に任せることが多いです。なので、僕らの主な役割は、毛が全部ついた状態で結うところからです。
いなせの鬘です。町人の頭ですね。先が曲がっていて、まるで魚の背中みたいなので、いなせっていうんです。
「いな」はお魚の名称なんですか!
そうです。漢字で書くと『鯔背』です。
こういう、後頭部の下が膨らんでいる立ち役の鬘を『袋付き』と言います。膨らんでいる部分が髱(たぼ)、横側が鬢(びん)、上の部分が髷(まげ)です。
結び紐などの飾りも中川さんが準備するのですか?
役者さんが決めていたり、うちで用意することもあります。島田は便利な形で、娘から芸者まで被れますから、娘のときは紅い切れを掛けたり、芸者のときは白い紙を結んだり。大衆演劇の女形は、『島田』『銀杏返し』『夜会』、これらを持ってたら、ほとんどの役ができます。男は『いなせ』『二つ折り』『かっつけ』『ざんぎり』を持っていたら、だいたい、いけます。
鬘は結い直しのほか、「修理に出す」というのもよく聞きます。どのような部分が壊れやすいのでしょうか?
網が破れてしまうことは多いですね。一番破れやすい場所は、隅。たとえば、慣れていない方だと、必ず紐を横へ開いてしまうんですが、こうやって引っ張ると…。
なるほど、これでビリッと破けてしまうのですね。
あとは、毛が飛び出ているのを指で押し込むのも危ないですし、台に戻すときにドーンと乗せてしまってもダメです。
デリケートなんですね!
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