旅芝居女優名鑑第2回辰己小龍(4/6)
大衆演劇の女優の仕事・苦労と喜び
「はー、切ない」
仕事の中で「女って損やなー」と思ったことはありますか?
あります。思ってました。
舞台が終わってから、みんなの衣装を畳んで、掃除して、ご飯片付けて、お風呂に入って、みんなのお布団敷いて、次の日の衣装を準備して…と、やることが山積み。
同じ家族でも、父、母、弟は「お疲れ」って出て行って、帰ってきて、私の敷いた布団で寝るだけ。その時、ちょっと切なくなりました。
当時は女の子が私しかいなかったんで…、他の女優さんは先輩だったり、ご夫婦でお子さんがいてたりしていたので、みんなの番の衣装の片付けとか、全部1人でやって「はー、切なーい」って。
同じ兄弟でも男女差で扱いが違う。でも…
女性を下に見ているかと言うと、そうではなくて。
他の劇団のことはわからないけれど、「お姉ちゃんがやってくれるから、自分たちは舞台が出来る」と、仕事として評価してくれました。
だから今の子たちにもそれを伝えたいんです。
女の子たちがこれをやってくれるから、昼寝できるんよ、あんたが食べたご飯の後も、やってくれるんよって。
しんどい仕事をやってる女の子を、ちゃんと立ててくれます。
男の子たちも、荷物の時は、暑い中運んでくれてるわけだから、持ちつ持たれつで、どちらも尊敬していける関係であれば良いなと思います。
あとは男も女も舞台の上は結果が全て、と小龍。
実力世界ですからね。何が実力かって言われたら答えられないけど、要はお客様を喜ばせたら正解なんだと思う。それが邪道であれなんであれ。
私が正統派でもなんでもない。ただ、私のやっていることで喜んでいただけている限りは、これが私の実力と言ってよいかなと。
今は女性にもチャンスがある!
かつての客の女優への反応。それに対する小龍チェックとは?
昔は、女優さんが個人舞踊で出たら、お客さん「女の子の踊りや、おトイレ行こ」って席を立つんです(笑)。
実を言うと私「お手洗い確認」してました。
自分の踊りの時に誰が立っていくか、見てました。
すごく根性ワルですよね私(笑)。
また、お芝居が終わった後、みんな楽屋に去るけど、私は幕に耳つけてお客さんの反応聞いてました。
当時は薄布1枚だし、よく聞こえるんですよ。
「小龍ちゃんが良かった~」って言ってたら、フフフン♪って(笑)。
お客様の自分への評価を知りたかったんですね。
女性にはスポットが当たらない。
個人舞踊はあるけれど、やっぱり男性の方が人気があって、お芝居ではその人にいい役がついていく。
どんなに頑張ってもダメなのかなって思った時期もありました。
35歳で初めての誕生日公演
それでも、時代とともに変化の兆しが…
今は全然違います!女の子を応援してくれるお客様がたくさんいます。幸せなことです。
私の若い頃は、1ヶ月やっても何の身入りもなくて、仕事の少ないセンターで、夕方4時頃から朝まで何にもすることない、お金もない、足(車)もない…なんてこと、普通にありましたから。
そんな時代と比べると、ガラッと変わりましたね。
私なんぞがゲストに呼んでもらえるなんて、当時は考えられなかった。
誕生日公演で舞台にケーキをあげてもらうことも、絶対になかったし。
そういえば、今では恒例の誕生日公演も、35歳で初めてやったそう。
たつみ座長に「姉ちゃん、女の人でもやったらどう?」と言われまして。
「そんなん無理無理!第一お客さん集まってくれない」「大丈夫大丈夫」。ドキドキでしたが、たくさんのお客様が応援してくださいました。
自分が主役の日なんて初めてで。
それが35歳ですから、私は遅咲きかもしれません。
自分では(天才子役と思ったことを考えると)早咲きだと思っていたけど…