木戸番のエッセイ・天職先は大衆演劇!第1回美月凛(紀伊国屋劇団)前編(5/6)
Ⅳ
大衆演劇の衝撃
無事合格して、憧れのOLの生活がスタートする。 仕事は内勤ばかりで、営業など外まわりの仕事はない。 お茶の入れ方をマスターした。コピーもとれるようになった。いよいよ人事の内示があると噂が流れる。
総務の仕事だろうか、経理の仕事だろうか、結局決まったのは「製版部」であった。
ちょっと地味かと思ったが、製版というとかつては「写植」さんと呼ばれる職人さんが、活字(逆文字)をこつこつ集めて組み立てていた。ところが現在はコンピューターでデジタル化した文字の配列を、昔の何倍のスピードでこなす。それが、凛に与えられた仕事だったのである。
結局は、実家でやっている仕事とかわらないのである。
やってみると、これは思いのほか楽しかったし、忙しい時と比較的暇な時があって、生活にもメリハリがついた。
なんやなんやで、4年が過ぎ、凛も22歳になり貯金もすることができた。
あとは、結婚相手でも探すか? そんなある日、地元の古い友だちから遊びの誘いの電話が入る。
暇なら、付き合ってほしいところがあるという。
一緒に行く人が急にこれなくなって 券が余っている。
「いかない?」
「どこへ?」
「大衆演劇」
「え、大衆浴場、お風呂?」
「大衆演劇って言ってるだろう」
「大衆演劇ってなに? 」
「来ればわかるよ」
当日になって行ってみたら、「嵐」のドームとは比較するのもはばかれるような劇場である。圧倒的なおばちゃんの数。どうした、この劇場。
「南條隆とスーパー兄弟」 スーパー兄弟ってだれ。堂本兄弟ならわかる、三味線の吉田兄弟、それもわかる。 でもスーパー兄弟はわからない。
芝居が始まった。なんと、時代劇。「格さんや」の黄門様も出てこない、スーパー兄弟らしい人もわからない。面白くなければすぐ出よう。
芝居の内容はシリアス。舞台の上、主人公が大泣きしてチョンチョンチョンとなる。 結局最後まで見た。おもしろかった。これはこれでおもしろいと思った。
そして、舞踊ショーがはじまる。
「ニノ」のいないショーである。見る価値はあるの、隣の友達を睨む。
現れたのは、スーパー兄弟の長男、龍美麗。
「なんだこれは。」
舞台の空気が一挙に変わる。この世のものとは思えないお姿。本当にかっこいい。 何回も言おう。いや、言いたい。かっこいいとはこの方のためにあるのだ。 180センチを超える身長、あの目。華やかな踊り。すべてのしぐさが華麗。そして、やっぱりかっこいい。
人生を変えてしまうような事件だ。私史上、最高の出会いの瞬間。今までに経験したことのない閃光を伴う衝撃。
衝撃とは、突き当たって、激しく打つこと。まさに衝撃。一世一代のショック。 生きていて、よかった。
これを機に、凛の行動が変わった。