木戸番のエッセイ・天職先は大衆演劇!第17回染弥あかり~劇団紫吹~後編(2/3)
Ⅲ
母親の面倒を見ながら、元のレジ打ちの仕事に戻り、通常の生活に戻ったが、大衆演劇の観劇をやめることはできなかった。
大衆演劇を愛する仲間もできて、青森はもちろん、岩手や秋田にも積極的に出かけていろんな劇団を観た。
そんなあかりも、20歳になった秋である。 秋田小町健康ランドに、紫吹洋之介座長が率いる「劇団紫吹」がやってきた。 あかりも、小学3年生から大衆演劇をみだし大衆演劇の観劇歴はもう10年を超えている。すっかりベテランの域であるが、この「劇団紫吹」の芝居を観たときは、本当に衝撃を覚えた。紫吹の芝居は、群を抜いていたからである。
そこからは「劇団紫吹」の追っかけになった。 なかでも、あかりは劇団の中堅どころの愛染菊也のファンになった。
ただのファンではない。愛染菊也推しの強烈なファンになったのである。寝ても覚めても、愛染菊也であった。
ただ、この場合は、役者とファンと言ってもいろいろと難しい問題を含んである。
ここからは、筆者の個人的な見解である。
役者も人の子である、恋愛もする。結婚も考える。しかし、役者は人気商売である。
多くの男の役者は、ファンに気に入られてなんぼである。人気が出でなんぼである。 お花がついてなんぼである。
役者が特定のファンとお付き合いをすると、すぐにうわさになって、評判が下がり、役者としてはろくなことはない。死活問題まで、発展することがある。
筆者がいる、あがりゃんせ劇場でこんな話があった。
ある役者のファンであった女性は、その役者が結婚をしたとき、ファンをやめた。
筆者はその女性と懇意であったので、訊いてみた。
「じゃ、役者は、好きな女性と付き合ったり、結婚はできないのかな?」
「基本的には、そう。役者には、夢がなければならないのよ。仮に、お付き合いや結婚をしていたとしても、隠してほしい。しかし、これから結婚をするのであれば、最初に私に伝えてほしい。他人から聞くのは、いや」
「それは、むつかしいよね。で、相談したら、納得してくれるのか?」
「それは、本人の事を思ったら……、子供も欲しいし、仕方がない。それくらいはわかる。しかしお花はつけない。なんで別の女とする食事代にまわるお金、お花を出すのは絶対いや」
「なるほど」
あかりの話に戻そう。
あかりは、菊也に夢中になったが、遠距離恋愛は男も女も大変である。ましてや役者とファンでは、ますます、大変である。
1ファンとしては、相手の男性は役者である、人気商売の身。もてるのは承知のうえ。 そこで、思い切ってあかりは、菊也に「プロポーズ」したのである。
菊也もOKをして晴れて結婚。 これを機にあかりは劇団紫吹に入ったが、劇団では裏方に徹した。