KANGEKI2022年4月号Vol.67

舞台裏の匠たち第4回「夢の中にも照明が出てくる」劇団炎舞投光橘みつおさん(2/2)

劇場:オーエス劇場取材日:2022年2月7日
舞台裏の匠たち 第4回 「夢の中にも照明が出てくる」 劇団炎舞 投光 橘みつおさん(2/2)

3.照明は座長から一任。だからこそ工夫を凝らす

劇場によってやり方も変わる

 

以前、劇団さんを取材させていただいた劇場で、後方からだと舞台の足元が見えないところがありました。
その時、橘鷹志さんの舞踊「肥後の駒下駄」で、最後に高くあげた下駄に、スポットが吸い込まれるよう消えて。足元が見えない分、逆に印象に残りました。

「肥後の駒下駄」
橘鷹志
みつお

うん、そういうところでは、小道具は出来るだけ見えるようにしてって言うね。劇場によって全然違うからね。

 

場所によってこうしてくださいとリクエストされるのですか?

みつお

する時もあるけれど、座長なんかはもうわかってるから。

小道具を照らすのも、曲や役者の動きに合わせる。例えば、舞台に傘を置いて、座長が花道へ行くでしょ。で、座長が振り返った時に、傘にスポットを当てる。

振り返って見た時に傘を照らす
座長 橘炎鷹
(2022.2.7 オーエス劇場)
 

そういうのも当然、打ち合わせ無しで、ですよね…(驚愕)

みつお

もう32年やってるから、だいたい何考えてるかわかる(笑)。1月30日が誕生日で、70歳になった。

 

逆に失敗したなって思う時はありますか

みつお

ほとんどないけど、たま~に、ちょっと違うことして、合わなかったなと思った時は『ごめん』って言うね(笑)。でも、失敗したかなって思っても、逆にこの方がいいなって思う時もある。毎回同じことはしないようにしてる。役者さんと同じやね。

座長 橘炎鷹 舞踊「江戸の闇太郎」 いつもスポットで舞台上空に「月」を浮かばせるが、この日はそれをせず闇の演出に (2022.2.23 オーエス劇場)

シンプルが基本。舞台側の操作に合わせて色を変える

 

今日は橘鷹勝花形の個人舞踊で「満月」という歌詞のところで、照明の色が変わりましたね。

みつお

フィルターの3つ目が黄色やから、これで「月」のイメージね。こういうのが好きなんよ。照明はシンプルなのが一番いいと、俺は思う。

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「満月」花形 橘鷹勝(2022.2.7 オーエス劇場)

 

色を変えるタイミングはどのように決めているのですか

みつお

舞台の電気(舞台袖で操作する照明)を見て、こっちも色を使うようにしてる。ハヤシの人(音響や照明を操作する担当者)もこっちに気を遣うし、俺も向こうに気を遣う。主にもん太がやっているけど、他のメンバーも担当する。見てたら今誰がハヤシやってるかわかるんよ。あ、今は鷹勝やな、とか(笑)。

 

個人的に好きなお芝居や舞踊はありますか

みつお

好きな曲は、テンポのいいやつ、静かなやつとか。芝居調の曲が好きかな。歌詞を聞いて月を出したり、照明している時はずっと集中している。

語りから始まる舞踊の時は、芝居の時に使う輪郭をぼかしたフィルターで投影
「夢千代日記」 橘あかり (2022.2 オーエス劇場)

お芝居の時はスポット3本ほしい

みつお

芝居の時は、これ(ぼかし)。光のきわを見せないように。

光の輪郭をぼかした状態
光の輪郭をくっきり映した状態
 

劇場によって立ち位置が変わったり、スポットが2本までしか置けないところがあるんですね。

みつお

お芝居の時は3本欲しい。また、当てる時は、決めておかなあかん。真ん中から右はこっち、真ん中から左はこっちで当てるって。

ここ(オーエス劇場)は正面だからまだ出来るけど、斜めから当てる時とかは決めておかないと分からなくなる。3本使うと難しいけれど、やりがいはあるね。

お芝居「浅草の灯」
座長 橘炎鷹
(2018.7.14 庄内天満座)
表情を変えた瞬間、照明を上げる

新作芝居は稽古から立ち会う

 

お芝居の照明もお任せなのですか

みつお

うん、そう。

 

座長から指示は

みつお

たまに、ある。例えば、ここの最初の方はスポットは点けないでください、とか、特別な時だけね。あとは任せてもらってるから。逆に、こちらからこうしてほしいことない?って聞くようにしてる。

新作の時は稽古から全部観るね。それで、この時はこうしようとか、考えるの。

 

以前取材させていただいた「河内十人斬り」は長丁場で人数も多いですし、照明も難しそうです

みつお

『河内』は大好き。難しいけど大好き(笑)。これをやる時は立ち稽古からずっと観るね。

 

蹴破りなどはタイミングが難しそうですね

みつお

大体わかるよ。わかるようになった。

お芝居「河内十人斬り」
蹴破り前はスポットを落とし暗闇に。蹴破られた瞬間に点灯
(2020.8.15 浪速クラブ)
 

「河内」で特にお好きな場面はありますか

みつお

やっぱり弥五郎と妹のおやなが別れるところやね。この場面は、誰がおやなを演っても泣いていた。自然と涙が出てくるんよ。

「河内十人斬り」
殴り込み前に弥五郎が妹おやなに会いに行く場面
(2020.8.15 浪速クラブ)
 

お芝居で泣くことはありますか

みつお

うん、照明しながらしょっちゅう泣いてた。今はもう泣かないけどね(笑)。

「河内十人斬り」
(2020.8.15 浪速クラブ)

4.投光は天職

寝ても照明のことを考える

みつお

俺ね、寝てからも照明のことばっかり、ずっと考えてる。夢の中で、開演時間が近づいて来て、これ(照明)が無い!って、探してるねん(笑)。またある時は、全然違う機械が座ってて、慌てる夢とか、しょっちゅう見るの。

 

そこまで考えるほど、駆り立てるものは何でしょうか

みつお

まあ、役者も俺がこうしたらこうしてくれるというのがわかってるから。やっぱり、きれいに見せてやりたいしね。投光は専門がおらんと、と、俺は思う。音響と照明、一番大事やもん。

 

そのこだわりが、お客様にも伝わっていると思います

みつお

ヘタクソって言われたくないし、好きでやってるから。美しいなって思ってもらえるように、俺が見せなあかん。役者さんを好きにならんと絶対いい仕事できない。

 

ずばりやめたいと思った時は…

みつお

昔に、ちょっとね。理由は言わない(笑)。この仕事に出会えてよかった。自分の天職やと思ってる。

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扇で顔を隠す時、照明も消す。 座長 橘炎鷹 (2022.2 オーエス劇場)

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扇の動きに合わせた光の演出 座長 橘炎鷹 (2022.2 オーエス劇場)

顔を出したときにスポットを点灯 左より 橘あかり、橘鷹志
(2022年2月23日 オーエス劇場)
袴舞踊の時はスポットを大きく使う。 「照明は2階から照らし、足元までしっかり入るのが理想」(みつお)
座長 橘炎鷹
(2018.3.25 新開地劇場)

みつおさんの照明ブースには香盤表がありません。事前打ち合わせもなく、すべてお任せ。それでどうやってあんなに安定した照明が出来るのだろう??と、頭の中は疑問符だらけ。

しかし、観ているうちに、役者がこうしたらこうする、この場合はこうする、といった、みつおさんが編み出したたくさんの「型」があることに気づきました。

「型」があるから全てに一貫性があり、その上で「遊び」が出来る。

大衆演劇の役者さんが、お芝居のセリフが全て頭の中にあって台本が要らないのと同じで、みつおさんにも照明の手法が全て頭に入っているので、香盤やマニュアルは要らないのでした。

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役者が振り向くと…花形 橘鷹勝(2022.2.7 オーエス劇場)

座長 橘炎鷹
(2022.2. 11オーエス劇場)

コロナで休演。信じて待つ

 

2020年、2021年と、コロナで休演になった時はどのように過ごしておられましたか

みつお

どうもせん。劇場の寮でじっとしとったね。テレビとか洋画好きやからそんなん見たりして過ごしてた。不安は不安やけど、あまり考えないようにしてたね。しょうがないもん。

 

信じてまつ、と言う…

みつお

はい(笑)。

 

みつおさんから見て劇団炎舞のここが好き!というところを教えてください

みつお

みんな仲良いし、チームワークが良いところやね。それとみんな平等。座長がみんなを平等にするところ。なかなかできないと思う。今、座員が減って大変やけどね。人数おらんと出来ない芝居が出てくるでしょ。それが残念やけど。

左から橘鷹羽、橘あかり、橘炎鷹、橘鷹勝、橘紅葉、橘鷹志

身体が動く限り

 

今日は本当にありがとうございました。最後に、32年照明を担って来られたみつおさんにとって、この仕事の醍醐味というか、ここまで続けられた理由、楽しみは何でしょうか。

みつお

やっぱり(こちらが照らすと)きれいに浮かんでくるやん。もっときれいに見せてやりたい、あ、ここはこうしてやろう、次はこうしよう、って。そんなことを考えるのが、楽しいね。

この間、録画していた高橋真梨子のコンサート映像を見たんよ。照明がそらあ綺麗で、歌と光がぴったり合ってるの。

 

コンサート映像でも照明に目が行くのですね

みつお

勉強になるよ。でももう70歳やから、座長には『あと何年出来るかわからんけど、出来るうちは頑張るから』って言ってる。まだ大丈夫やけど(笑)。

 

もちろんです!まだまだ先のことと思いますが、引退された後、したいことはありますか?

みつお

もう車の免許もなくなったからね。免許切替えの年を勘違いして忘れてとって(笑)。

何がしたいか、全然浮かばない。考えるのはもうちょっと先でいいかな。もうちょっとね(笑)

橘みつおさん

取材メモ

「いつかボスがみんなに『タコ(みつおさんのこと)の言うことは俺が言うことやと思え』って言ってくれてね。嬉しかった」と、みつおさん。

投光は、舞台にこそ立っていないけれど、お芝居も舞踊も劇団メンバーと一緒に作っている。そんな思いが伝わってきました。

取材:太田・加藤

劇団情報

劇団炎舞

昭和63(1988)年3月に初代座長橘魅乃瑠が兵庫県のホテル後楽圓にて「橘劇団」を旗揚げ。平成14(2002)年3月、橘魅乃瑠の息子・橘炎鷹が座長襲名し、劇団名を「劇団魅星」に改名。その後、体調不良により一時舞台を離れたが、平成20(2008)年より再び座長として舞台に立ち、劇団名を「劇団炎舞」に改名。まさに不死鳥のごとく新たな炎鷹ワールドを展開。2018年に結成30年を越え、若手の成長も著しい。

劇団炎舞公演予定

劇場情報

オーエス劇場

大阪府大阪市西成区山王2ー14-20

オーエス劇場公演予定