大衆演劇にまつわるあれこれの言葉。 お芝居の中に出てくる言葉から、大衆演劇独特の言葉まで、知っておくと大衆演劇がより楽しめます。このページでは「あ」行の用語について解説します。演目や題材については演目豆事典をご参照ください。
あ
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アイマイあいまい
二人以上の人が一緒に踊ることを指します。
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葵一門あおいいちもん
葵一座を率いる、葵好次郎さんの弟子筋にあたる役者及び劇団の総称です 。劇団舞姫、劇団朱雀、劇団鯱、劇団輝、劇団真田など数々の劇団が葵一門の名を冠し、時折一門が一堂に会した公演も行っておられます。
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赤城山あかぎやま昔の上野国、今の群馬県にある山です。国定忠治が本拠地とした事で有名です。「赤城の山も今宵限りか」
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悪役あくやく悪事を行ったり、主人公の敵役となる役。魅力的な悪役は、主役を更に引き立てます。
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揚幕あげまく
花道の、舞台裏から役者が出てくる場所にかかっている幕です。 劇場の紋が染め抜かれている事が多く、昔は揚げる幕でしたが、現在では左右に引いて開ける幕が多いです。
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行灯あんどん
昔の照明器具です。昔は油の入った皿に灯心を入れて火をつけることで明かりにしていましたが、江戸時代になって和紙の覆いをするようになりました。 大衆演劇の舞台では欠かせない大道具であり、木枠の色が赤なら料亭、侠客物・座敷なら黒、世話物なら木目といった使い分ける演出もあります。 また、壁などにかけたり、店の看板に使う掛行灯もあります。
演出によってはちゃんと明かりがともる行灯もあります。
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衣桁いこう
着物をかけるための、鳥居のような形をしたもの。 大衆演劇の舞台でもしばしばみられます。
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衣装いしょう大衆演劇の舞台で、役者を引き立てる存在、それが衣装です。 時代物が多い大衆演劇において、多くの衣装は和服を基本としていますが、現代的なデザインや模様が取り入れられたり、とても華やかな物が多いです。特に花魁の衣装などは金糸や銀糸をふんだんに用い、大胆な柄で見る物を圧倒します。この衣装を生で見るだけでも、舞台を見に来たかいがあるというものです。
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衣装箱いしょうばこ衣装を入れて保存しておく箱。お茶の保存に使われていた杉製の箱に似ていることから茶箱(ちゃばこ)と呼ばれることもあります。移動が多い大衆演劇の場合は、持ち運びやすさも要求されます。近年では軽量の紙製やプラスチック製の衣装箱も増加しています。かつては竹や藤で編んだ行李(こうり)も使われていました。
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板付きいたつき芝居の開始時や、舞台転換を行って幕が開ける際、役者が舞台に最初からいる事を指します。
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一文字幕いちもんじまく舞台の最上部についている、動かない飾りのための幕です。照明などを隠すためのもので、横一文字の形なのでこう呼ばれます。
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一里塚いちりづか
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井原西鶴いはらさいかく江戸時代前期の大作家で、「日本永代蔵」「好色一代男」「好色五人女」等で知られています。「おさん茂兵衛」「お夏清十郎」などは、大衆演劇の演目の元となっています。
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入りいり
- 劇場へのお客様の入り具合。「今日の入りはどんなもんかね。」
- 役者さんなどが、劇場に入る時間。「明日の入りは何時かな。」
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刺青/入れ墨いれずみ針などを用いて、身体に紋様などを定着させることです。侠客などは大きな模様の刺青を入れていましたが、刺青を入れる際の激しい痛みに耐えたという証でもありました。 また、江戸時代には島流しにあった罪人の腕には、二本の黒い線の刺青が入れられていました。 大衆演劇においては、刺青が入った人の役が演じられることもありますが、墨肉(すにく)と呼ばれる肉襦袢(にくじゅばん)や肌襦袢(はだじゅばん)を着て演じられます。非常に精巧にできているものもありますので、驚いてしまうかも知れません。
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印籠いんろう木の箱を漆などでぬり、開閉できるようにした携帯型の小物入れで、主に薬を入れるために使用しました。江戸時代の男性にとっては書かせない小物で、大変こった細工のものが作られることもあります。水戸黄門が葵の紋を見せるのに使うものが有名です。
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浮草物語うきくさものがたり昭和9年(1934年)に封切られた、日本映画界の巨匠、小津安二郎監督による、旅役者一座をテーマにした映画です。主演の坂本武は旅役者の出身で、「喜八」の役名を持つ小津映画の常連でした。昭和34年(1959年)には小津監督本人によって『浮草』としてリメイクされました
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打ちあわせうちあわせ普通の舞台では、大道具さんや舞台監督などと綿密な打ち合せが行われますが、毎日舞台が変わる大衆演劇では数分ですませてしまうことも。それでもきちんと舞台は完成されるのです。
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打ち首獄門うちくびごくもん斬首の後に、さらし首にされる刑罰。 獄門とは牢屋の門で、その近くでさらし首が行われた事からこう言います。悪役はこうなることもあります。
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江戸えど現在の東京。徳川家康が居城と定め、江戸時代を通じて日本の中心地でした。大衆演劇芝居の題材の多くが江戸を舞台としています。
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江戸時代えどじだい徳川家康が征夷大将軍となった1603年から、明治時代となる1868年頃までを指します。大衆演劇芝居の時代背景はほとんどが江戸時代です。
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江戸幕府えどばくふ
徳川氏の将軍を頂点とする、江戸時代の統治組織です。
将軍の下に数人からなる老中が設置され、主にこの老中によって政治の方針が決まりました。大名は老中達の指図を受ける立場にあり、大大名といえども逆らうことはできませんでした。また厳格な身分統制がしかれており、老中や若年寄などの幕府高官には大名、それも徳川家に昔から仕えた譜代大名しかなることはできませんでした。
一方で大岡越前守忠相や田沼意次のように、旗本やそれ以下の身分から出世して、大名や老中になる者もいました。
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演劇改良運動えんげきかいりょううんどう
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縁起棚えんぎだな侠客や芸人の家にある神棚です。前に長火鉢(ながひばち)を置いて、親分がキセルを吸う姿がよく舞台で見られます。
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演目えんもく大衆演劇において行われる、芝居の題名の事です。外題(げだい)や名題(みょうだい)といった呼び方もされます。
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お伊勢参りおいせまいり
伊勢神宮に参るための旅行を指します。伊勢神宮は各地に御師(おんし)を派遣し、伊勢講(いせこう)と呼ばれる旅行のための補助組織を作って参詣者を募りました。幕府や大名も伊勢神宮参詣には許可を出すことが多かったため、庶民にとっては一生一度の旅行となることも多かったとされます。
江戸時代には時々爆発的にお伊勢参りが流行することがあり、これは特にお蔭参り(おかげまいり)と言います。この時には主人に無断でお伊勢参りをしても、許されるほどでした。
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花魁おいらん
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大入りおおいり
劇場へのお客様がどれくらい入ったかを示す、入りが一定以上ある事を大入りと言います。人気劇団の公演なら連日大入りとなります。
大入りが出ると劇団の方が客席に記念品を投げ入れることもあります。
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大入袋おおいりぶくろ
劇場でお客様がたくさん入った際、つまり大入りの時に、劇場から役者や関係者に配られるぽち袋です。中には5円から500円といったお金が入っていますが、ボーナスというよりは基本的には縁起物です。
劇場のロビーなどに大入袋が貼付けられていることもあり、どの日が大入りだったか分かるようになっています。明治時代頃に始まった慣習と言われています。
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大道具おおどうぐ演劇用語での大道具は、舞台のセット・幕などを指します。映画やテレビでは家具なども小道具にふくまれますが、大衆演劇では基本的に大道具扱いとなります。
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岡っ引きおかっぴき
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沖縄芝居おきなわしばい沖縄で伝統的に行われている芝居。セリフは基本的にウチナーグチ(琉球語)で行われています。大衆演劇とのコラボレーションもたびたび行われています。
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置屋おきや
女郎や芸者を抱えておき、茶屋などの座敷に派遣する商売。
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送り出しおくりだし公演終了後に、役者が劇場口にそろい、お客様を送り出す事です。 お客様にとっては、さっきまで舞台で見ていた役者さんが、目の前に現れて握手や写真撮影もしてくれるというまさに夢の一時です。 ただし、他のお客様もいらっしゃいますし、お疲れの役者さん自身のご迷惑になってもいけません。ほどほどにしておきましょう。
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贈り幕おくりまくひいきのお客様から役者や劇団に贈られた幕。襲名などの吉事があった場合には祝い幕とも呼ばれます。
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追っかけおっかけ特定の役者や劇団の熱烈なファンで、興行先などまで追いかける人の事。
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十八番おはこ役者が最も得意とする演目や演技の事。 七世市川團十郎が、市川宗家のお家芸として18の荒事演目を定めた事に由来します。
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お花おはな
大衆演劇界における「お花」とは、お客様から役者さんにお渡しするご祝儀金のことです。 テレビなどで大衆演劇が取り上げられる際に、お札を首飾りのようにかけている役者さんの姿を見たことがある方もいると思います。自分が出した物を身につけて、役者さんが歌い踊る、これはまさに大衆演劇ならではの世界です。1980年代頃から始まったと言われています。
お花における注意点
- 芝居の邪魔をしない
- いくら役者さんへの心遣いがあっても、芝居の最中にお渡ししては芝居が台無しになってしまいます。お花を渡すのはあくまでショーの際にしましょう。その時も、自分のそばに役者さんがいらしたタイミングを見計らって差し上げてください。
- 大金でなくても大丈夫
- お札の首飾りや、クリップで留めたお札はまさにお花といったイメージです。ですが一万円以下の場合も、ご祝儀袋に入れて、帯や胸元に差し入れるといった形でお渡しできます。
- お客様同士の心遣いも
- 近くに常連のお客様がいらっしゃった場合、一声あいさつをするなどの気配りも大切です。客席が悪い雰囲気になっては、全てが台無しになってしまいます。
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女形おやま/おんながた
女方とも書きます。歌舞伎・大衆演劇等にみられる、男性の役者が女性の格好をしたり、女性の役を演じることを指します。江戸時代、女性が舞台に上がる事は禁じられていたため、男性の役者が女性を演じるようになりました。女形となる役者はいかに女性らしく魅せるかを研究し、芸に昇華させているため、女性より女性らしい、なんていう事も言われたりもします。
大衆演劇における女形は、最大の見せ場の一つでもあり、多くの座長や役者さんが女形を演じていらっしゃいます。しかし昭和40年代頃までは、座長が女形をやることは一般的ではありませんでした。昭和30年代に女形として活躍した辻野耕庸さんは、座長が女形をやることは軽蔑されていたと回想されています。
ところが昭和50年代に、女形を得意とした梅沢富美男さんが「下町の玉三郎」の通り名で呼ばれ、一躍スターとなった事から、大衆演劇といえば女形、という見方がされるようになり、ほとんどの座長が女形を演じるようになりました。
近年では北野武監督作品「座頭市」に、橘大五郎さん・早乙女太一さんが女形として出演した事で、世界的にも知られるようになりました。
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音楽おんがく
大衆演劇の演出に欠かせないのが音楽。歌謡ショーはもちろん、芝居の場でも音楽がかかります。演出の座長の趣味が多分に反映されます。昔は演歌や浪曲が多かったですが、現在は最新のヒット曲や洋楽などなんでもありです。
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温泉おんせん
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女剣劇/女剣戟おんなけんげき
明治時代後半から昭和40年代頃まで、大衆演劇界でよく見られたジャンルの一つです。女性が男性の役を演じ、殺陣などの激しいアクションを行うもの。二代目大江美智子、不二洋子、浅香光代、中野弘子などのスターを生みました。
参考文献
- 「芝居通信別冊 大衆演劇座長名鑑2003」オフィス・ネコ(2003年)
- ぴあ伝統芸能入門シリーズ「大衆演劇お作法」ぴあ(2004年)
- 木丸みさき「私の舞台は舞台裏 大衆演劇裏方日記」メディアファクトリー(2014年)
- 宮本真希「大衆演劇における『お花』とは何か―見せることの意味―」(2013年)
- 鵜飼正樹「大衆演劇はグローバル化の時代をどう生き抜くか?」(2011年)
- 「江戸時代の1両は今のいくら?―昔のお金の現在価値― 」 日本銀行金融研究所貨幣博物館