KANGEKI2021年8月号Vol.60
木戸番のエッセイ・天職先は大衆演劇!第7回錦はやと~劇団錦座長~(後編2/4)
Ⅱ
博行は、もう一度、仕事について、考えた。 結局、自分には何ができるのか? やっぱり、役者しかない。芝居しかない、そう、決めたのである。
まさみも母親に相談に行った。孫の顔を見せたら母親と自分の関係も雪解けを迎えると思っていたが、博行の仕事が決まっていない以上、家にはいれない。ましてや、うれない役者に逆戻りは許されない。結果、まさみは勘当であった。
どうする、博行。
自分は、役者で生きていくことに決めた。でも、うれない役者ではダメだ。じゃ、自分の劇団を立ち上げて座長になってやろう。 その思いをまさみの母親に切々と述べた。
「おれ、自分の理想の劇団をつくります。女房、子供の為にも…」
母親の表情が、変わった。
「それは今までとは全くちがう。座長は社長だ。事業を起こすことと同じだ。でも本当に劇団を作れるのか?」
「絶対につくります」
「いつまでに?」
さすがに、ゴッドマザーである。期限を切ってきた。
「3年ください」
「わかりました。では3年待ちましょう。そのあいだ、あなたたちがここの家に来るどころか、連絡もとってはならない。もちろん孫にも会わない。娘は勘当します。わたしはそれぐらいの覚悟があります。もし、その約束を反故するときは、娘は返してもらう。いいね」
「わかりました」