KANGEKI2021年3月号Vol.56
旅芝居女優名鑑第2回辰己小龍(2/6)
大きな別れと試練を越えて
この道一筋。辞めたいと思ったことはあるのでしょうか。
あります。 16歳の頃、先輩が休みの間に役がついたことが、もう楽しくてしょうがなくて。
でもその先輩が戻られてからまた仕出し(*)に戻って…
3日くらい役がない日が続いた時「つまらないからもう辞めようかなー」って、考えちゃいました。
(*仕出し=新人が主に担当する端役)
その頃の私は、仕出しにも人間性があることを考えていなかった。
今なら仕出しの人間性を考えて演じるので、何を演じても楽しいです。
そんな小龍に大きな別れの時がやって来ます。
私が28歳の時に父が亡くなりました。
自分の芝居を見て「いいぞ」と言ってくれた父がいない。 他にも褒めてくださる方はありましたが、どの方の言葉も耳に入らないと言うか納得ができない。
ゴールが見えなくなり、何のためにやってるんだろう、もう辞めてもいいかなあと考えました。
それくらい父に認められたくてやっていたんですね、私。 誰に何を言われようが平気。父の言うことこそ合っていると信じていました。
当時、女性が役者として花開くことは無いものと思っていたけれど、ただ舞台が好き、父に褒められたいという思いが原動力だったんですね。
その時の悲しみは言葉に出来ないほどですが、父がいなくなった劇団は大変なピンチで、とにかく劇団を守らなきゃ!と、必死で頑張っている間に、だんだんやりたいものが出来てきました。
本当に徐々にです。
仕事に生きがいを感じたり、芝居を愛する心が芽生えたりしたのは…。
もう1つ、プライベートでの転機が
21歳の時、劇場の道具の仕事をしていた主人と知り合い、27歳で結婚。
父も喜んでくれましたが、孫の顔を見せられなかったのが心残りです(その後3人の子供に恵まれます)。
主人は劇団の道具作りや音響面を支えてくれるパートナーでもあります。