旅芝居女優名鑑第7回澤村かな~春陽座~(3/6)
第3章 「大根役者」でいい
涙をこらえる演技
これまでたくさんの役を演じてきて、失敗談や、忘れられないハプニングのようなことは?
それが私、大きな失敗ってないんですよ。小物を忘れて横からもらうとか、セリフ飛んで言えんかったとか、少しくらいあった方が面白いんですけど(笑)。
気持ちが入りすぎて泣きすぎるのはあかんと気づいたのは、20代半ばです。 目に涙を溜めながらも一滴もこぼさず、笑顔で、でも心の中では泣いている…っていうのを女優さんはしなくちゃいけない。
当時劇団指導者だった沢田ひろし兄さんに言われたんです。
「いいねんで、ガンバってるのわかるし。でも感情のままに泣きすぎる。悲しいのを我慢するという演り方を覚える頃かな」って。
泣くのをこらえすぎると伝わらないし、さじ加減が難しいです。
「お千代物語」のお千代はグッと耐える方ですね。 「残菊物語」のお徳は、大阪まで迎えに来たお義父はんに思いを語った時しか泣きません。ラストはぽろっとこぼす程度です。
尊敬する女優は田中裕子さん。
さりげないたたずまいや遠くを見つめる眼差しだけで伝わるような。そんな演技が好きなんです。
目指すは「大根役者」
演じる上で大切にしているのは「大根役者」になること。
大根役者って役者を貶す時に言われる言葉ですよね。でも「大衆演劇の女優は大根役者になれ」って、劇団美川の女優さんが言っておられたと、お客様が教えてくれたんです。
大根は煮てもいいし、スライスしても、すり下ろしてもいい。 相手が焼き魚だったら、おろしになって、より美味しく、さっぱりもさせる。お刺身だったら刻みで飾りになって、主役を引き立てる。 つまり、相手に合わせて、何にでもなる。
確かにそうだ、私もそれを目指そうって思いました。
この考えは、舞踊ショーにも引き継がれています。
出番をもらう限りはお客様を退屈させないようにしようと思いますが、その中で1番になろうとは思わないです。
ショーのリストを見て、そこに無い感じのものを踊るようにしています。例えば可愛い系がなかったらそういう曲を選びます。
好きな曲や歌手も、特にないです。流行りのものをチェックして、舞踊やお芝居で使えそうな曲があれば、煌馬に言ったり、ゆっちゃん(澤村優夢(さわむら ゆず))に合うのを見つけたら勧めたり。
なので、「かなちゃんのこれが見たい」とリクエストしてくれるとありがたいかもです(笑)。
逆に得意なものを作りたくないと言います。
差を作りたくないんです。通りすがりの役も、セリフがたくさんある役も、全部一緒と言う感覚でいたい。
舞踊でも、どの曲も全部意味を込めて踊っているので…歌詞を聞いてどういう人物がどういう気持ちか考えて、踊るのが好きなんです。
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