木戸番のエッセイ・天職先は大衆演劇!颯天蓮(正舞座)後編(3/5)
Ⅲ
旗揚げ準備
旗揚げには問題は山積みであったが、まずは資金である。
私が調べたところ、まずは必要最小限のものを用意したとしよう。 音響、照明機器、衣装、鬘、背景幕で、数千万円は必要であろう。役者にはローンという道はない。どうしたらいいのか? あなたならどうする。やっぱりやめるか!
要座長に聞いた。
「旗揚げのために貯金もしていたし、ご贔屓のお客様に力を借りたりしました。今思うと、旗揚げよりもそれからの方がかかってますよね。でも目的をしっかり持って必死で働いていれば、神様は鷹揚にそれを見ていて、なんとか融通がつくものですね。ははは・・・」
気楽というのか、頼もしい限りである。
そして、劇団員の問題である。 二人は自分たちだけの色の劇団を作りたかったので、なるたけよその色のついた大衆演劇の役者には声をかけなかった。
いろんな場面で募集をかけていた。SNSに載せたしポスターも貼ったし、チラシも配った。 時間はかかったが、ほとんどは正大の芸に惚れての入団だった。
そんなひとり、現メンバーである舞咲碧士(まいさきあおし)の場合は、もともとミュージカルが好きで、宝塚音楽学校を受験。花は散ったが大衆演劇に目覚め、正大の公演に自分をアピールするために木刀を持っていった。案の定注目され、入団決定。彼女のミュージカルのナンバーを聞いたら、その場を動けなるから、ご注意を! 彼女がいれば「心配、ないさ~」
メンバーには19歳のイケメン舞咲龍茉(まいさき たつま)がいる。
この新人は、必ず伸びるので、ご注目を! 彼はおばあちゃんが大衆演劇が好きで、一緒に通っているうちに入団を決意。特技は空手。近畿大会で決勝までいった実力者である。
負けた時のこと、チャンピオンになりそこねたことをいまだに悔しがる。 「空手の技を芝居に生かしたら」と言うと「空手の試合は審判が見ているだけですが、芝居はたくさんのお客さんに見せるわけですので、そこは座長の演出しだいです」 なるほど、これは、1本とられたね。
メンバーの中でことさら、キレッキレのダンスをする女性がいる。舞咲早耶香(まいさき さやか)である。 彼女は、年中(保育園・5歳)のころから、ジャズダンスをはじめて、バレーやピップホップなど、踊り漬けの生活を経験。同時にミュージカルを基礎から学ぶなど、筋金入りのダンス少女だった。
よさこいなどの団体の踊りもマスターしたあと、偶然にお母さんといっしょに大衆演劇を観る。そして大衆演劇にはまり、ツイッターで正舞座を知る。いまやダンスについては座長の信頼も厚く、アイデアを求められることもある。
早耶香の踊りと碧士の歌のコラボは、あがりゃんせ劇場の舞台が梅田芸術劇場に見えるのは、私だけだろうか。
正大と蓮は、自分たちの色をだすために、あえて役者ではなく素人を採用してきた。 他の劇団の色を排除してきたはずなのに、とんでもない極彩色の女優がやってきた。
南條光貴のおしゃれなスタイルを身にまとい、三河屋桃太郎のウイットにとんだ芝居に頭までつかっていて、また、どこか紫吹洋之介の移り香が漂う女優が入団した。 陽月(ひづき)ゆりである。
彼女は、3人きょうだいで、彼女が長女。下の弟には、劇団「紫吹」の茜太介がいるし、一番下の弟はなんと、要正大である。 初めての大衆演劇の経験者である。これには蓮は助かった。
いろんな状況で頼りになる存在であった。それに身内だけに遠慮なくものが言える、が、ゆりも容赦がない。この小姑、蓮からすれば年下の姉である。経験豊富な女優だけにいろんな意見をぶつけてくるが、これがいちいちもっともなので、十分に参考にさせていただく。
ゆりには息子がいる、ゆり三きょうだいのDNAをもった陽月輝哉(ひづきこうや)12歳)で最年少である。二人そろっての入団である。
輝哉のおねぇさん的な立場に舞咲花奈(まいさき かな)14歳がいる。娘役の役にピッタリの中学生で、大衆演劇ファンの孫的な存在で人気も高い。
旗揚げには、資金、メンバーだけではなく、協力者と運は絶対に必要である。 この協力者も運さえも正大に起因するところが多く、正大の日頃が見えた。
この旗揚げに、非常に親切に協力してくれた劇団がいた。二代目南條隆とスーパー兄弟である。
その南條隆一座が、旗揚前に劇団ごと公演に呼んでくれたのである。 正舞座は関東の公演に2ケ月参加させてもらった。そこで劇団のメンバーは着物も着れるようになって化粧もおしえてもらった。台詞をいただいて芝居もした。